龍虎が見えれば
「ありゃ~。クロ君やられちゃった?」
「半ば事故みたいな感じだけどね」
未だに近くで炎が盛る中で、背後からリョーの声がした。
クロと相対してから十分と経たないで此処にいるわけなのだから、偶然だったとはいえ少しでも長く戦っていれば挟撃されていただろう。
とりあえず気絶してしまっているクロの両脇を抱えて炎から遠ざけ、物陰に転がす。
「そういえばリョーとは能力をちゃんと使っての戦いをしたことなかったわね」
「そうだね~。ボクとしてはハクちゃんと争うのはあまり好きじゃないしね~」
「けどまぁ今回は――」
「そうだね――」
「「本気でやろう」」
口火を切るのはその言葉。
別に私もリョーも、示し合わせたわけじゃない。
だけど、同時に取った行動は間逆の選択。
リョーは飛び退き、私は前へ詰め寄る。
彼我の距離は前へと突っ込んだ分だけ私が有利をとる。
右の拳を振りかぶることなくリョーの顔面に突き出す。
当然リョーは飛び退いた姿勢のままにそれを避ける。
だが、これは牽制だ。今の突きに威力は力はほとんど入れておらず、即座に引き戻し彼女の水月へと間髪いれずに本命のストレートを繰り出す。
ぱぁん。と小気味のいい音が響く。拳からは冷たい感触。
つまり、私の攻撃はリョーが展開した水膜に威力を吸い込まれてしまっていた。
とはいえこの程度のことでうろたえる訳にはいかない。こちらの攻撃はリョーの【水を操る】能力で防ぐことは十分想定内であり、水に拳が掴まるよりも早く腕を引き戻す。
右にステップ。リョーの側面に移動して背中からわき腹に向けてのフック。確実に捉えたという直前でコマの様にリョーは時計回りにくるりと翻ると、その勢いからの裏拳がこめかみへと放たれる。
腕でブロックするのも選択しだが、すぐにその考えを打ち消した。
視界の端に映る先ほどは彼女の身を守った水塊が奇妙に波打っている。彼女との戦いで最初に考えることはあの攻守共に優れた水をどうにかするということ。とりあえずこのまま足を止めてリョーの攻撃へ対処しようものなら痛い目を見ることは確実だ。
故に、私は距離を詰めての短期決戦の方針を転換。足を止めずに上半身で回避して、一歩離れた距離へと離脱する。直後、彼女の身を守っていた水塊が蠢けば形を変えて周囲を薙ぎ払った。間一髪というところで私は範囲から抜け出ていたおかげで当たる事は無かった。
「ありゃ、避けられちゃった」
「結構エグいことできるわよね、リョーの能力って」
「その分集中力は必要だから長期戦には向いてないんだよね~」
「よく言うわ」
とぼけた表情でリョーは笑うけれど、長期戦になればなったでリョーには龍鱗という鉄壁の守りがある。勝つという部分を度外視すれば彼女が負けるというのはそうそう無いことなのだ。実際、今まで続けてきた三人での特訓の中で一番勝率が高いのもリョーである。
兎にも角にも私が狙うのは超短期決戦。今の状態もあとどれだけ保てるのかはわからない。なら、全力で仕掛けるしか選択肢はなかった。




