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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
92/187

各個撃破

6/23に行えなかった分の投稿を行っています。

連続してこのような形をとってしまい申し訳ございません。


 歪む視界を取り戻す。

 無作法に行われた呼吸を止める。


 「(状況は絶体絶命だ)」


 刻一刻と迫ってくるのはクロ。

 あの一撃を貰えば確実に戦闘不能になる。それだけは避ける必要がある。

 今まで動かしていた手足を本当は動かしたくないけれど、かといって動かさなくなればリョーが私を気絶したと捉えてこの水を解除してしまうかもしれない。それでは意味が無い。この状況を、本能わたしでは乗り越えられなくなった状況を人間わたしが乗り越えなくては意味が無い。


 「(床に足は……着く。周囲にものは、無い)」


 暴れる振りをしながら、時折踵やつま先で床を蹴る。おかげで自分が宙に浮いているわけでもないということを把握する。つまるところこれは、浅瀬で溺れているのとなんら変わらない。冷静になれば大丈夫だ。もう息はほとんどなくて搾り出した思考でどうにかできる。となればあとは、タイミング。

 今すぐ行動に起こすも悪くは無いけれど、この状況を一瞬だけ打破してもクロが万全の状態で攻撃を仕掛けてくるだろうし、リョーは彼の背後から状況を見守っている分アクションし易いだろう。となればどちらかの隙を誘発しなくてはならない。

 必然的にクロしかいない。

 一歩、一歩とクロが近づいてきた。


 「一人だとあんだけ厄介だったのがこうも簡単になるとは思わなかったぜ……」


 響くように聞こえる彼の声は、恐らく暴走したときの私と戦ったときのことを思い出しているのだろう。

 確かに、傍観していた私の意識は彼がほとんど成す術が無かったというところを見ていた。


 「とはいえ、中てれば終わり」 彼が私の前に立った。

 「(見極める――)」 歪む視界で前を睨む。

 「せぇ――」 拳を振り上げた。

 「(ここ!)」 足を地面に着ける。

 「の!」 振り下ろされた。

 「ッッ!!」 全力で、足に力を込めて、跳ぶ!


 ブン、と拳がすぐ目の前を過ぎていく。

 どうにか、水の中から脱出をした。


 「ぷはっ!?」

 「マジかよ!?」

 「うそ~!」


 二人の驚いた様子なぞ気にしている余裕は無い。げほ、と水を一塊吐き出して、新鮮な空気を吸い込む。

 視界はクリア。思考も大丈夫。身体に違和もない。


 なにより、私の意志で動く。


 「ふ――」


 だが今はそんなことより仕切りなおしを計らざる終えない。

 すぐさま障害物の陰へと飛び込んで、彼らから一気に離れることにした。





 「ふぅ、はぁ、ふぅ」


 まだ体内に残っていそうな水を吐き出して、濡れる顔や髪は服の裾で荒く拭う。

 ひとまずは行動に移せる。自分の体も動かせる。

 身体の中の火照りを前までは抑え付けるような感覚だったのに、今は違う。軽くて、この熱さがどこか心地よい。気分が昂ぶるのを気持ちよいと感じている。

 髪の毛は白と黒の縞模様。クロやリョーに聞くと今までの私は髪の半ばまでしか黒い縞模様が走ってなかったみたいだけど、今は毛先に黒がある。それが何を指すのかを、私はきっと知っている。


 「さて、やりましょうか」


 状況は二対一。さっきリョーのトラップを考えればうかつな行動をすれば似たような状況に陥るであろうことは確かだ。もしかしたら、それ以上の状況になるかもしれないけれど。

 ともかく理想は各個撃破。特にリョーを先に潰したいけど相手もそれだけは避けたいだろうから今頃は一緒に行動しているかクロが囮になる形で動いているだろう。

 だったら、誘いに乗った上で潰してみよう。

 倒す順番はクロ、リョーだ。





 「凄いわね」


 自分の事ながら、そんな感想が漏れた。

 走っているだけというのに、それを苦に感じない。どころか、どこまでもいけそうな気分になりそうなのが楽しくもあり、ちょっと怖くもあった。

 流れる視界の光景に映った道具、武器を拾い集める。銃は使おうと思ったけれど完全に不意を討ちたいなら今回使用するのこれらよりも適した道具がある。

 ケヴィンが用意した特訓上に置かれている道具は使い方を誤れば中々に危険な代物が転がっているときがある。さすがに毒ガスという類のものはないけれど、いつか使った閃光手榴弾スタングレネードを始め、非殺傷性の手榴弾にクレイモアなんてものもある。その中でも特に危険なのは――


 「あった」


 目的の物を見つけた。

 正直使ったことは一度も無い。けれど、使い方は知っている。自然と、頭の中に浮かんでくる。

 記憶メモリの使い方を知っていたときと同じだ。恐らくは私の知識の中にはそれの使い方が最初からある。他にもこういう類の道具の使い方はなんだかんだで知っていた。それはつまるところ私がどんな目的で作られたのかを示すことでもあったけれど、今はそんなことはどうでもいい。


 移動に際して僅かな音も消すために、靴も靴下ソックスも脱ぐ。ペタリと着いた足裏に感じる冷たさは熱くなる体を幾分か冷ましてくれた。

 裸足で動くというのは悪くない。しっかりと自分の感覚で踏みしているという実感が得られる。加えて指先一本まで神経を張り巡らせれば踏み込む足に力をより入れやすくなった。


 移動は慎重に。

 曲がり角を移動する際には金属片を鏡代わりにして確認。移動を繰り返す。


 「ん~。どこにもいないな~」

 「あんときのハク、ちょっと変だったからな。もしかしたら正気の可能性があるかもしれん」

 「ボクはあの時ハクちゃんがクロ君に殴られる直前に偶然足が上手く着いてがむしゃらに逃げたって風にも見えたけど」 

 「オレからすればあんな絶妙なタイミングで回避したうえ呼吸が困難な状態で思考が鈍ってるつーのに早々に退散を選んだのがおかしいと感じるね」

 「クロ君がそう感じたってことはその可能性を否定はできないね~」


 数回の移動を繰り返して、遂に二人の声が聞こえる位置まで戻ってくることが出来た。

 案の定二人は互いの死角を消すように背中合わせで移動をしている。加えてよく観察してみればリョーの足元には薄っすらと水の膜が張っているのも確認できた。恐らくは、あれを罠か網のようにしているんだろう。


 となれば分断は必須。そしてそのための道具も手元にある。

 深呼吸を一つ。

 レバーを握る。こいつの起爆はピンを外してから5秒だ。

 ピンを抜き、レバー開放。ハンマーが動作した。


 「1、2、!」


 約二秒。それで十分。

 二人のどちらかに偏るように投げるのではなく、二人の間になるように投擲。

 それが放物線を描く。


 からん。


 「っ!?」

 「まずっ」


 二人が互いの間に落ちたのを確認するのと同時、リョーが即座にそれを水で包み込む。

 だけど無駄だ。それは火薬による起爆ではない。化学反応という、物体同士が反応することで起こる延焼だ。その温度は水を瞬間的に蒸発させるだけの勢いがある。


 炎の壁が二人を分けた。となればすることは一つ。

 投げている間に移動し、私はそいつの目の前に立つ。


 「まんまと分けられたってかぁ」

 「さっきの仕返しに来たわよ」


 背後で燃え盛る炎によってか、私が目の前に立ち塞がったからなのか。

 苦い顔したクロと私は向き合った。



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