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Factor  作者: へるぷみ~
白い少女の物語
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彼のためにできることを


 ケヴィンの所をあとにしてから一週間がたった。

 いつもと変わらない日常を過ごす中であの日から少しだけ変わったところもあった。


 「それじゃあ柏、お留守番をお願いね」

 「うん、いってらっしゃい」

 「いってきます」


 いつもと変わらない朝を迎えて、朝ごはんを食べてしばらくすると桐峰はバイクに乗るときのジャケットを羽織る。そして外へと出かけるのだ。最初こそいつもいてくれた桐峰が日が暮れる寸前までいないことが辛かったけれど、最近は家の中でもできることを自分で探してするようにしている。

 出かけるときはいつも桐峰は私を抱きしめてくれるのでそれで寂しさを紛らわせるようにしている。けれどやっぱり寂しいことには変わりなかったけど。


 桐峰が家にいない時間が出来たことで、自然と家の中での家事は私がするようになってきた。何度も彼のお手伝いをしてきたからそれなりにやり方はわかっていたし、火を扱うときには慎重に扱うよう心がけている。今日はお洗濯の日だ。外は雲で覆われているけれど今日はどちらかといえば天気がいい日なので、外で服を干すにはうってつけの日だ。


 洗濯は大きな桶に水を溜めて、粉末洗剤を大匙一杯。腕をまくって用意した服や下着を一枚一枚洗っていく。終わったら別に用意した水桶で濯いで出来る限り水気を飛ばしたら出来上がり。家の裏手の干す場所に一つずつしわを伸ばしていった。


 お昼は一人だ。これもここ一週間で始めての経験で、いつもは桐峰と食べていたと考えるとお昼ご飯は味気なく感じた。


 午後はちょっと眠くなってくるけど、体を動かしてると自然と眠気をどこかへ去ってしまう。家の周囲は森なので、野生動物もいるけれどここら一帯で危険な動物を見たことを私はなかった。そのおかげで森の中は好きに走り回れるので木に登ったり、できるかなって思ったことを色々試しながら時間は過ぎていった。


 日が傾いてきたら家に戻って手と顔を洗って洗濯物を回収する。回収できたら全部折りたたんでタンスにしまう。そろそろ桐峰が帰ってくる時間だ。


 「うーん」


 冷蔵庫の中を見て少し唸ってしまう。何を作るのがいいのだろう。何を作ったら彼は喜んでくれるだろうか。そう思うと止まらなくなってしまいそうだったけど、視線に止まったものをみて夜ご飯は決まった。

 冷蔵庫から玉ねぎとにんじん、じゃがいもを出す。最後に『アレ』をだして台所に並べたら野菜たちを下処理していく。桐峰はいつも煮込むようにしているのだけれど、私に煮込むという行為をするには経験が乏しいということは料理を手伝ってまだ数回しかしていないことから断念した。代わりに炒めるというのは最近お昼や手伝うときにもたくさんやっているのでそっちの経験を利用するしかない。


 一口サイズまで切った野菜のうち、じゃがいもとにんじんは先に炒めていく。火の調節は弱・中・強の3つしかないから最初は中で。ある程度炒めたら玉ねぎをいれる。このときに半分は小さく、もう半分は普通に切った。そしたら塩と胡椒は小さじ半分ほど。小さく切った玉ねぎが少し焦げ付くぐらいになったら大きめのコップに入れた水を少しずつ入れるその過程で一緒に『アレ』と小麦粉も少しずつ入れて混ぜていく。全部で4回に分け入れて、煮立ったら完成だ。

 おさじで少しすくって舐めてみる。


 「うーん」


 まずくは無かった。けれど初めて食べたときに比べたら少し何かが違うような気がした。なんでだろう。


 「ただいまー」

 「あ、おかえりなさい!」


 桐峰の声が聞こえてきて私は振り向くと、彼はいた。

 飛ぶように抱きついたら彼は優しく受け止めてくれた。


 「おや、この匂いは……カレーか。柏が作ったのかい?」

 「うん」

 「そうか。ありがとう。それじゃあ一緒に食べようか」


 へぇ炒めて作ったのか。食卓に並べられたものを見て桐峰は述べる。

 お手伝いで何度か作ったことはあったけど、一人で全部作ったのは初めてだった。それもいつも桐峰が作る方法じゃないのも初めてで、彼が食べたときになんて言うのか気になってどきどきする。


 「「いただきます」」


 スプーンを手に取った桐峰はカレーを口に入れた。

 私は彼がなんと言うのかが気になってまだ口にしていない。おいしくなかったらどうしよう。


 「うん……おいしいよ」


 優しい笑顔で、彼は答えてくれた。いつもと変わらない笑顔は私に安心感を与えてくれる。体の中で何かが落ちていくような、過ぎていくような感触があって私は目の前にあるカレーを口にした。

 そのとき感じたカレーの味は、さっき味見をしたときよりも確かに美味しかった。



※実際の調理方法とは違う場合がありますのでご注意ください。

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