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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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少し時は過ぎて


 研究所での一件から、しばらく経った。

 その間私を含めてクロとリョーで戦い方の模索や【因子保持者ファクター】として能力を向上させるための特訓なんかもしている。

 幸いにもケヴィンの隠れ家は私たちが思いっきり動いてもびくともしない頑丈さで、遠慮なしに動けるということと、彼自身が私たちのことについて理解があるおかげで意見を貰ったり、【因子保持者ファクター】としての能力に頼らない戦い方なんかを教えてもらったりもした。


 そうした特訓を続けている合間にケヴィンから桐峰については聞かされていない。

 彼がそういわないということは進展が無いということだろうし、それだけあの人の治療に時間がかかるということなのだろう。


 「えい!」

 「うぉ!?」


 目の前では水で生成した槍を握ったリョーと場に転がっていた棍棒を握ったクロが戦っている。

 最初こそクロは武器を使わない戦い方を重視していたけれど、最近は私やリョーが彼の間合いの外からの攻撃を行うようになったせいかそこらにあるものを投げたり武器にしたりして攻撃の間合いを延ばすことも選択肢に入れ始めている。とはいえ、武器に一日の長があるリョーに押されているからそこら辺は課題の一つだろう。

 そしてリョーは、今も振るっているあの水の槍を基本武器にしている。理由としてはしっくり来るということ、水が常にある状態での戦いだから幅が広がるということ。現に、クレハとの戦いで見せた障害物や武器をすり抜けての相手への直接的な攻撃ができるというのは中々に厄介だ。加えて最近身に着けたのは水の槍の先端だったり石突の部分から水の弾丸を飛ばすようになったり、一時的に細く伸ばして安易なバックステップへ追撃をしかけたり、一度槍の形状を崩して水の膜を作ることで攻撃を防いだりと多彩な戦い方をするようになった。恐らくだけど平時での戦いでは彼女が一番強いかもしれない。


 「おらぁああああああああ!!」

 「うわぁわわわわ!?」


 やはり武器での応戦は不利と悟ったクロが、手に持っていた棍棒をリョーに向かって水平投げする。風をきる音で回転しながら接近する凶器にリョーは慌てた声でしゃがんで避けると、その間に距離を詰めたクロが彼女めがけて拳を落とす。

 ぱしゃ、という音が響く。

 確実にリョーへと落とされるはずだった拳は、彼女の頭を殴ることは無かった。二人の間には球体となった水。その球体の半分までがクロの拳で埋まっており、妨げていた。リョーの手にあった水の槍はない。ということは、あの一瞬で槍の形状になっていた水を球体レベルまで圧縮し、防御したということだ。実際に目の当たりにすれば厄介な能力だ。本人は集中力をすっごく使うからあんまし使いたくないなんていっていたけれど、特訓を始めてからずっと水を操り続けていることもあってか集中力が大分鍛えられてることもあってほぼ一日中戦闘で能力を行使できている。


 舌打ちをしたクロは咄嗟に拳を引いて、前蹴りを繰り出すとリョーは水で守ることなく腕で防いで後ろに飛ばされた。大きく跳ねて背中から接地し、二回三回と後転した後に勢いに身を任せて立ち上がる。

 リョーを蹴飛ばした張本人であるクロは渋い顔をしていた。まぁ私の目から見ても今彼女が蹴りを受けたのはわざとだし、蹴りに合わせて後ろへと跳んでいたから蹴った感触は手ごたえが無く、蹴られた方のダメージはほとんど無いだろう。

 仕切り直しだ。

 ちなみに、さっきまで球体となっていた水はリョーが離れたことで力を失って床に落ちている。


 「じゃあこっから組み手ね~」

 「そりゃいいけどよ、意味あんのか?」

 「肉弾戦での相手の動きに合わせた身体の動かしたは覚えたほうがいいって聞いたけどボクとしては組み手楽しいから~」

 「オレとしちゃそんなの関係なく思いっきりぶん殴れば済むんだがな」

 「それじゃあもしクロ君の【甲鱗】とかボクの【龍鱗】を通せる敵と出くわしたときにあっさりやられちゃうじゃない。クレハさんとの時みたいに」

 「ぬ……」


 実践的な戦いの他にも、いわゆる武術なんかをしてもいる。基本的には本とかの文献を読んで、それとなく体を動かして、とりあえずやってみようという感覚だけど。これに関してはクロはあまり乗り気じゃない。対してリョーは何かが合っているのか大分気に入っているようだ。よく本に書かれている技の再現なんかもしているしその場のアドリブで使ってくることもある。成功するより失敗するほうが多いけど。

 二人は互いの間合いまで近寄ると合図することなくまず、リョーが右の正拳突きを繰り出す。ゆっくりとした動作で繰り出されたそれをクロは受け止めるのではなく、円を描くように左の腕で外へと弾く。そしてそのまま右の正拳突き。今度はリョーがそれを自分の内側へと迎え入れるように手を沿えて軌道を変えると、半回転してクロの右横へとスライドする。

 密着した状態でリョーは先ほど沿えた腕を掴み、互いの右足を絡ませ、投げる。

 宙に浮いた体をクロは少し不器用ながらも一回転して左の足で着地。


 などなど、相手の動きに対して臨機応変に動き、段々とゆっくりな動作から速くなっていく。

 最終的には互いの拳打が音をなるぐらいになってきたところでどちらかが一本とったら終了だ。


 距離的にはほとんど移動していないというのに互いに互いを上へ下へ右へ左へと動くものだから見るヒトによっては踊っているようにも見える。


 「そ~い!」

 「ふん!」


 リョーの手刀がクロの首元に。

 クロの拳がリョーの顔前に。

 今日は引き分けのようだったけれど、リョーはにこやかに笑っているし、クロも満更ではないような表情をしていた。



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