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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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汚れを落とそう


 ケヴィンの隠れ家へと無事帰ってきた。

 とはいえ行きに比べてクロが負傷しているというのもあって無理はさせないために時間を掛ける必要があった。

 本当は車の中でケヴィンに色々と聞きたいこともあったんだけど、想像以上に疲労していたこととタブレットが一度として映像を映さなかったということもあって聞きそびれていた。

 そして帰還すれば出迎えられたケヴィンに、


 「まずはちゃんと寝るといい」


 なんて言われて最低限の食事をしたら瞼も重たくなって、クロはどこかへ、私とリョーは一緒のベッドで眠った。





 「ん、ん……?」


 温かな水から浮上するような感覚。

 身を委ねたくなる世界の中で、まどろみながら瞼を開く。


 「んゃ~」

 「寝てる振りしない」

 「……ありゃ、ばれちゃった」

 「そもそもリョーが寝ているときに寝言を言っているの聞いたことが無いもの」

 「そうだっけ?」

 「車の中で眠ってたときには静かだった」

 「そっか~。まぁボクとしてもそこらへん自覚ないからハクちゃんが言うならそうなのかもね」


 朗らかに笑う彼女を見て、一つ気づいた。


 「臭うわね……」

 「そういえば、疲れてたから気にしてなかったけど体洗ってなかったね~」

 「行きましょうか」

 「は~い」


 早々にベッドから出ると、服を持ってリョーと一緒に部屋を出る。向かう場所は当然浴場だ。ケヴィンの隠れ家は家というには広かったり狭かったとあべこべで、彼曰く一人で住んでいるんだから自分の使い勝手がいいようにしているだけさ、とのこと。浴場の場所は食事をしている部屋を抜けて、地下に行く。地下なのは地中から湧くお湯を溜めた『温泉』があるためで、ケヴィンの所に来たときの密やかな楽しみの一つだといえた。最近は入る暇もなくてご無沙汰だったけど、今から楽しみだ。


 「ほら、脱いだ服はこっち」

 「はいは~い」


 脱衣所で服を脱ぎ、血やら砂やら汗で汚れた服を全部自動で洗ってくれる桶に入れた。曰く、『洗濯機』。桐峰の家にいたときにはないもので、手間要らずというのが凄い。


 「お~、なんか凄いね!」

 「本当にね」


 湯気が立ち込める中、リョーが興奮した様子ではしゃいでいる。

 なんとか彼女を宥め、体に付着した汚れを洗い流していく。髪の間にはじゃりじゃりとした感覚があって、砂が絡まっていたためにそれをちゃんと洗い流すのが大変だった。リョーに関しては髪が短い影響なのか、そこまで難儀してなかったけど。


 「ふは~」

 「ふぅ……」


 温泉に浸かる。丁度良い温かさのお湯が強張った体を解す。自然と口からは息が漏れていた。

 少しヌルッとしているのが良い温泉だなんて聞いたけど、そんなことを考える必要も無く今はこの温かさに包まれていたい。


 「「………………」」


 しばらくの間、何をするまでも無く温泉の余韻に浸る。

 ぐっと腕を伸ばすと筋肉の伸びる感触。それがとても気持ちよかった。


 「これからどうなるんだろうね~」

 「ひとまず言えるのは、クレハが言ってたように強くなる必要があるってことね」

 「そういえばハクちゃん、いつの間にかクレハさんと普通に接してるね」

 「そういえばそうね。自分でもわからないけど、なんか、信頼できるというか、やっぱり良くわからない……」


 確かに、紅叉華朱里と名乗っていたときのクレハとは短い時間でも一緒にいた。それでもあの時の彼女は演技をしていたと言っていたし、はっきり人となりを知っていたわけじゃなかった。そういう意味では、あの研究所では再会というよりも初対面といえる。

 最初こそ私たちへ殺気を向けてきて、抵抗しなければ本当に死んでいたから必死だったけど、その後に関していえば彼女の言葉を疑ったことはほとんど無かった。殺し合いをしているときもそうだ。出鱈目を話している可能性だってあるはずなのに、私はその言葉に嘘を感じることは出来なかった。


 「ん~」

 「あんまり長風呂すると体にも良くないから、もう出ましょうか」

 「そうだね~」


 身体の温度とお湯の温度にあまり差を感じなくなってきて、いい感じに暖まってきたし、長居する必要も無い。

 隣を見ればリョーの頬は少し赤みを帯びていたし、出るには丁度良かった。

 閉鎖し始めた思考を打ち切って、私たちは浴場を出るのだった。



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