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Factor  作者: へるぷみ~
廻る少女は朱に染まれない
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再戦


 青年は荒野を歩いていた。

 否、歩くことしか出来なかった。


 「………………」


 腕と胴体に軽くは無いダメージを負ってしまったためだ。他にも服の端々が裂けており、傷口が塞がったばかりの皮膚特有の赤みを帯びていた。

 本来であれば傷口が完全に癒えるまで休息をとるのが最適なのだが、今の彼はそれを考えている時間は無い。特に、先の戦闘において自身をここまで追い詰めた少女から聞かされた話を聞いてからは尚更だった。

 幸いにも、足は軽い切り傷があるだけであり歩行をするにあたっては問題は無い。しかし、肉体を酷使して走ろうとすれば内部にダメージを受けている今、体力が持たない可能性まである。特に荒野の真っ只中で倒れることは避けたかった。さしもの青年でも意識が無い状態で野生動物に襲われたらどうなるかはわからない。

 目的地は決まっている。全ての元凶がいる【中央セントラル】。今現在持っている武器も道具もほとんど無いが、それでも何とかすると彼は意思を固めていた。

 正気でないといえば、正気ではない。ケヴィンの隠れ家での一件から彼は常に何かに追われている強迫観念が思考を満たしており、普段の彼であれば必ずしない選択をしているからだ。


 実際の話、青年と三人の少女たちがすれ違ったのは僅差。丁度良く三人が活動していない時間の夜に彼は研究所を離れ、持てる余力を使って荒野を駆けた。

 さすがに肉体がオーバーヒートしかけたため、彼は肉体を酷使しないようにしながら進んでいるというのが現状だった。


 そうして歩いていくうちに、風が吹いた。

 乾燥した大地の砂が風に巻き込まれ、彼の視界を覆い隠す。されど、彼の歩みは止まらない。

 風が止んだ。


 「はぁ、まさかここまで移動してるとは思わなかったわ」

 「君は……」


 青年の目の前には、一人の女性がいた。

 炎を想起させる髪と双眸。

 そして、自分と同じ風を操ることができる【因子保持者ファクター】。

 彼にここまで負傷を負わせた張本人だった。

 しかし、彼の記憶にある少女の姿に比べてその肉体は明らかに成長しており女性の肉体だ。それでも青年が彼女だとわかったのはやはり成長前と成長後に不自然な部分が無いということと、目を引く炎。そして、彼にとって大事な少女の面立ちにどこか似ているところがあったからだろうか。


 「そういえばあたし、アンタに名乗ってなかったわね。クレハよ」

 「……それで、何のようだ?」

 「別にとって喰おうってわけじゃないんだからそう殺気をこっちに向けないでよ」

 「君にとって僕が生きているということは良い意味をもたないだろう」

 「まぁね。でも、事情がちょっと変わった。ちょっとご同行をお願いしたいんだけど……まぁ無理よね」

 「当然だ。僕にもやらなければならないことがある」

 「そんな傷で?」

 「そうだ」 青年にとって、傷がどうこうなど理由にならない。

 「死ぬわよ」 女性は端的に述べた。

 「死んでもするべきことがある」 青年の瞳に迷いは無かった。

 「はぁ。なら、無理矢理にでもアンタを止めるわ」 女性は説得を諦めた。そもそも、説得できる最初から思ってもいなかったが。

 「道を阻むというなら容赦はしない」 手負いであることを感じさせない気迫。獅子ならぬ竜は、何が何でも己の意志を押し通すつもりだ。


 「シィッ」


 動いたのは青年。

 今この瞬間において青年は自らの負傷による身体機能の低下を無視して動いた。時間をかければ自ずと敗北することはわかっている。ならば、短期決戦しか彼には選択肢が無い。


 「ふッ」


 少女はだらりとした自然体から、意気を瞬時に漲らせ青年へと対応する。


 突き出された腕を弾く。

 弾かれた腕の勢いを利用して左足による上段蹴りからの右回し蹴り。

 二度の蹴りを潜り抜け軸足一本に向けて水平蹴り。

 足を掬われ浮いた体が浮く。

 常人では不可能な膝のバネを利用し、前宙踵落としによる追撃。

 無防備に浮いた体をしかしどうにか両手をクロスさせて蹴りをブロック。

 しかし全体重に加え人外の脚力で放たれた一撃を空中で受ければ地面に叩きつけられ地面は陥没する。

 沈んだ青年に対してダメ押しのスタンプ。

 されど地面が陥没したぶん衝撃が緩和されたことで追撃に対して腕を跳ねさせ回避。


 両者の距離が空く。


 「よくもまぁそれなりの傷で動けるもんね」

 「君こそ、最初に会ったときに比べて明らかに殺気がない。どういうつもりだ?」

 「だから、殺す予定だったけどやめたのよ。さっきあの子達に会ってね」

 「まさか、柏に出会ったのか!?」

 「そりゃアンタを追いかけて来たんだから会う事だってあるわよ」

 「彼女は無事なのか?」

 「一応ね。アンタ同様殺してやりたかったんだけど。――まぁそうもいかなくなっちゃったし」

 「……」

 「まぁ色々あんのよ、あたしにも。それで、今アンタに死なれるのは非常に困る」


 だからまぁ、ちょっと気絶しなさい。

 女性はそういうと、上唇を舐めて踏み出した。



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