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Factor  作者: へるぷみ~
廻る少女は朱に染まれない
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少女が生まれた意味


 風で暴れる赤い髪の様相は、本物の炎のようだった。


 「ごめんなさいね」

 「えっ、きゃぁ!?」


 そんなことを考えた瞬間、隣にいたはずのリョーの姿が掻き消えた。

 聞こえたのはリョーの短い悲鳴。どん、という音が背後からして振り向けばクレハの手によって壁に叩きつけられたリョーの姿があった。


 「リョー!?」

 「…………」 返事は無い。

 「大丈夫よ、思いっきり叩きつけて気絶させただけだから」


 軽々しく言ってるが、子供で女とはいえ人間一人を壁に叩きつけ、あまつさえ殺さずに意識を奪う。【因子保持者ファクター】にとって手加減をすることが難しいのはわかる。それだけに、彼女が自分の力に振り回されていないということがはっきりとわかってしまった。

 壁からずり落ちるリョー。呼吸しているのかは不安なところだけど、一時も呆けていられないしクレハから目を離すわけには行かない。


 「どうしてこの子を殺さなかったと思う?」

 「え?」

 「理由は簡単、貴女が激情するから」

 「何を言ってるの?」

 「わかっているのでしょう、自分の因子を強く発現させたときに暴走することぐらい」

 「それは……」 無論、知っている。現に私はこの局面でも因子の力を制御できなることを恐れて全て出し切れていない。

 「【因子保持者ファクター】としての力を出し切れないなんてことは本来無いのよ。何故なら個体それぞれに適応した因子を用いてるから。【因子保持者ファクター】っていうのは人工的に生まれた新たな人類の可能性。そして自分の体のことを把握しているのは当然で、自分の因子の力がどんなものかっていうのは本能的に理解しているの。だけど、あなたは違う」

 「どういう、こと……」

 「あなたは素体となった遺伝子、使用した因子に関してはそこにいる二人より非常に特殊だわ。というより、自然の産物ではない。【ビャッコ】はその基としてホワイトタイガーを用いるはずだった。だけどね、あなたを生み出したヤツはそこに一手間加えた。ただのホワイトタイガーじゃつまらない。タイガーとライオンを掛け合わせた合成獣キメラであるライガーを使うことにしたのよ。そしてホワイトライガーの遺伝子を基に他の生物の遺伝子を組み込むとき、そこでもまた色々混ぜてたわ。白、白、白。動物のアルビノをかき集め、その遺伝子を組み込んでいく。その遺伝子を、さらに人工受精を繰り返して作られたある少女の遺伝子に組み込んだ。最初の貴女は凄かったわよ。だって髪も白、瞳も白、肌も白。本来アルビノの特徴ともいえる色素が無いからこそわかる赤い目がなかったんだもの。人というよりは人形ね。作ったやつは中々に狂ったヤツだったから、そこで廃棄をするはずもなかった。何度も何度も調整調整。意思がない人形だから出来ることよね。やがて肌は人の範疇の白になって、目は色素を組み込んで茶色にして、段々と人間に似せていったのよ」


 彼女の言っていることはわけがわからなかった。

 自分の出自を言われているはずなのに、非現実的なそれはただただ耳を抜けていく。

 作られた存在だということぐらいはわかる。何を求めて生まれたかなんてわからないけれど、私は私のために、桐峰のために生きるということは決めている。


 「無論、【因子保持者ファクター】としての力が発現しなければ意味が無いわ。だって人形は人形でも動く人形を作らないと意味無いもの。だけどそこで不備があったのね。あまりにも動物という概念から離れてしまったが故に、本能を表層に出すことが出来なくなった。唯一わかっていたのは、人間として強い感情の発露を引き金にすればいいと思われること。この場合だと、他者に対して攻撃的になる感情ね。つまり怒りがある程度を超えたときに【因子保持者ファクター】としての能力が発揮する。当然能力が解放されたときの理論値は高かったわ。何せ、本能は抑圧すれば抑圧するほどに爆発したとき凄まじい事になる。それは理性を塗り潰すほどの怒りと本能になるのでしょうね。だからこそ、それも調整する必要があった。勝手に動く人形を置いておいて襲われたりしたら意味が無いもの。けど、そうはできなかった。能力にリミッターをかけるという段階で、研究所が壊滅したから。当時から【リュウ】が研究所を襲ってたことはわかってたけど、偶然の産物とはいえ最強の因子を持つ【因子保持者ファクター】の襲撃というのはもう天災と同様なの。楽に死ねるか苦しんで死ねるかのどっちかだけ。当然、抵抗むなしく研究所は壊滅した。事後処理として把握できていたのは研究所で作っていた【因子保持者ファクター】が一人消えていたということ。そのあとはもう、わかっているわよね?」


 何が何だからわからない。

 どうしてこんなことを彼女が喋っているのかもわからない。

 私にとってあの白い世界から桐峰が救ってくれたことが全てだ。


 「ちょっと長話になっちゃったわね。まぁアナタに対する冥土の土産のようなものだと思ってくれて構わないわ。殺すことに変わりないから」

 「あ……」 気づけば、目の前にはクレハがいた。

 「さようなら」 既に振り上げられた白刃。それを避けようにも身体は動かない。


 死が、振り下ろされた。


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