半日と二日
車に乗っている間は手持ち無沙汰だったのもあって、ケヴィンが車に積んでくれたという荷物を調べることにした。
といっても基本は食料や飲料水、原理はよくわからないが火を起こすのが簡単な液体なんかもあった。無論寝るための毛布などいれたり尽くせりというやつだった。
「しっかし、キリミネがバイクをかっ飛ばして半日ぐらいってケヴィンのヤツは言ってたけどよ、ならこの
車を今の調子で走り続けたらどれぐらいかかるんだ?」
『その答えはこれから話そう』
「うぉっ!?」
「ケヴィンの声?」
どこからともなくケヴィンの声が聞こえてきた。彼の姿は無いはずなのに。
『あぁこっちだ。荷物の方』
「ん~、あ、これじゃないかな~」
そう言ってリョーが荷物の奥から取り出したのは一枚の板。片面にはモニタらしきものがあり、そこにはケヴィンの肩から上が写されている。
『よしよし、感度は良好。ちゃんと通信もできてるようだ』
「ケヴィン、どういうことなの?」
『あぁ、今回は保護者となるキリミネが君たちの傍にいないからね。いくら人間よりも身体能力なんかが優れているからって、知らないことはどうしようもないないだろう。だから、ボクは戦えない分アドバイザーという役割さ』
「あと、これなに?」
モニタの中に映っているケヴィンを指差す。
『タブレット、っていうのが正式な名前だね。詳しい原理を教えるのは時間が無いから省くけど、まぁそいつが無事で一定の条件さえ満たしていればこちらから君たちへ連絡を取ることができる』
「こっちからは出来ないの?」
『できない。いや厳密に言うとできるんだけど、セキュリティの問題からそっちからこっちへと連絡を取ろうとすると最悪そのタブレットが壊れる』
まぁ考えてみれば、このタブレットの使い方なんてわからないから変なことをする気はなかったけど。
「わかった。それで、さっきのクロの質問に対する答えだけど」
『ああそうだった。君たちの車の場合は今出している速度だったら休まず走って一日だね。けど、一日中走行し続けるというのは唯一の運転手であるクロが疲労してしまうから、適度に休憩は取ったほうがいい。あとは夜の走行も避けるべきだ。ということを鑑みると、大体2日は掛かる』
この速度で移動しているのに二日かかるのか。ということは徒歩だったらもっと時間は掛かりそうだ。
「キリミネは?」
『正直、あいつは休まず止まらずだろうね。目的地に着くのとバイクがオシャカになるのはほぼ同時じゃないか? まったく、あれだって貴重な資源なのに』
肩をすくめるケヴィン。しかし、彼が研究所にたどり着くのと私たちが研究所にたどり着く間には大体一日と半分は空いてしまう。その時間は少しもどかしく感じた。
『とりあえずクロにはボクがナビゲートして研究所へと出来る限り最短距離で走ってもらう。相当に運が悪くなければ走行中に邪魔が入ることはないだろう』
「とりあえず今はなんとなくで走らせるようなもんだけど、合ってんのか?」
『あぁ、その辺は大丈夫。ただ、もう少し進んだら進行方向を変えないと南じゃなくて西の方に行くことになるから、必要なタイミングで合図する』
「りょーかい」
『とりあえずクロが運転している間はハクもリョーもすることはないのだろう?』
「まぁ」
「そうだね~」
『車に乗っていて気持ち悪くはなっていないか?』
「特にないけど」
「ボクも~」
なら良かった、とケヴィンは言った。
『それなら今のうちに寝ておくのがいいよ。夜になったらクロは出来る限り休ませる必要がある』
確かに、何もしていない私たちに対してクロは常に車を走らせるため集中する必要がある。一日が終わるこまではずっと同じ状況に晒されるわけだから、出来る限り休ませるというケヴィンの案は正しかった。
「わかったそうするわ。っていいたいんだけど、私はさっき寝ちゃったし、あまり眠気がない」
『なら、クロと適度に会話をしてあげてくれ。同じようなことを長時間続けると神経が麻痺して事故の元になる』
「ん、わかった」
「それじゃボクは寝とくね~」
小さくリョーがアクビをすると、私の膝に頭を乗せてすぐにリョーは寝てしまった。
『とりあえずボクもしばらくすることはないし、一旦通信を切るよ』
「うん」
じゃ、という合図と共にケヴィンが映っていたタブレットは真っ暗になる。
タブレットは席の背もたれに立てかけて、私は外の風景を眺めながら時折クロと取り留めの無い会話をしたのだった。