ケヴィンからの餞別
用意された食事を食べて、服を着替える。
「そういえばキミたちはずっと生身で戦ってたんだって?」
「うん」
「だったら、コイツを持っていくといい」
ケヴィンがそう言ってテーブルに並べたのは銃やナイフ、あとは手榴弾などだ。
「銃の使い方は簡単にしてある。スライドを引いて、引き金を引く。装弾数は10発の拳銃だから発砲した回数はちゃんと覚えておいたほうがいい」
「でも、練習なんてしてないから当てるのなんて無理よ」
「当てる必要は無い。キミたちに必要なのは遠距離からの攻撃手段だ。まず戦いにおいて自分たちが遠距離からも攻撃が出来るということを知らせるだけで相手の動きは大きく変わる。お守りだと思って持って行きなさい」
「わかった」
手渡された拳銃はホルスターに納められていたため、どこに巻くかを考えた結果太ももに巻くことにした。
「ナイフは基本的に使おうと考える必要は無い。ツールとして使うのが一番だ」
ナイフは折りたたみ式のものも用意されていたので、それを手にとって胸ポケットに入れる。
「手榴弾と閃光手榴弾は用意したけど、やめておこう。扱いを間違えれば怪我ではすまなくなる」
確かに、もともと武器の類の扱いは知っていても実戦でちゃんと使えるかなんてものは怪しい。となれば取扱の難しい爆発物を使うというのは何が起こるかもわからないのに使うのは難しいだろう。
「それと、体の動きを阻害しない程度のプロテクターを用意したから、ちゃんと体に合ってるか確かめて欲しい。軽いけれど、一度に銃弾を同じ箇所にでも撃たれなければ貫通しないぐらいには丈夫だよ」
渡されたのは軽く本当に丈夫なのか疑問を抱えてしまう籠手と臑当て。装着して体を動かしてみるが、特に不自然さは無かった。
「どうやらちゃんと身に着けられたようだね。そっちの2人はどうだい?」
「合ってるな」
「おっけ~です」
「それなら良かった。それと、少しだけキミたちの体は調べてあるからハクはもちろん、二人についても把握してある」
「いつの間に……」
確かに、考えてみればケヴィンのところへ来てからまだそんなに時間は経っていないはず。だけど今は、彼がこちらをちゃんと理解できていることは心強かった。
「クロの能力は有り体に言ってしまえば肉体を強化する。だけど一度に強化できる場所が限定されているなら、最も重要な場所にだけ能力を宛がえるようにするのが一番だ。そうなるとキミにとって一番能力の使用が多い場所は拳と足になる。逆にそれ以外のところをちゃんと守ってやればいいわけだ」
「けど、銃弾の中を突っ込むときは体のほぼ全部に能力を使うから防具は逆に使いづらくなんだが」
「それに関しても考えはある。というか、キミの場合最も注意しないといけないのが関節だろ。だから今渡したプロテクターに加えて肘当て、肩当て、膝当て、なんかを装備しろ。一応違和感は無いようにしてある」
「よくそんなの用意できたな……」
どこから取り出したのか、ケヴィンはクロに向けて左右対称になった追加の防具を渡した。クロが装着してみればちゃんと合っているのか不満を言うことはなかった。
「次にリョーカだね。キミは確か、クロの能力の上位互換だからその辺は考えない。あえて言うなら惜しまないことだ。で、本題はキミが水を操れることだな。確かそれは水が無いと扱えないってことでいいとして、どの程度の水量から操れるんだ?」
「一応ボクが水だと認識できるところかな。窓についた水滴ぐらいからなら操れるよ」
「ふむ、それなら良かった。キミ達が旅で使っているろ過装置はまぁボクの自作なわけだが、あれをちょっと改良したものに、大気中の水分を吸湿して水を生み出すことが出来る装置を作ってある。携帯できるように作ったのはいいが、欠点として保存できる水量が50 mLというのと、満タンになるまでに10分は掛かるということ、空気中の水分が少なければその分得られる水量も少なく時間が必要になるということ。そんなわけだから、9×19 mmの弾丸型の保存器を用意した。弾頭部分を蓋にしてあるから、そこを指で弾けば水が出るようにしてある。容量は大体15 mL程かな。ベルトを改造したものだから普通に服の固定に使えるし、短くして腕や太ももなんかに巻くならそれも可能だけど?」
「なんかボクの派手だね~」
「正直、水を操れる能力なんて水という縛りがあるだけで有用性を考えれば非常に良いものだからね。これぐらいはしないと。一応弾丸型の方は緊急的に使うように心がけて欲しい。装置が水を作るのに対して時間が無いときに使うという感じで」
「は~い」
リョーは銃弾にしか見えない水入れを装着したベルト体の動きを阻害しないような場所へ巻くと、最後にケヴィンの手から水を作るという装置を手渡され、それを懐にしまった。
「ボクからの餞別の残りは車に積んである。さぁ行くといい」
「うん、ありがとうケヴィン」
「まぁ貰えるものは貰うぜ。助かった」
「ありがとね~」
「親友を頼んだよ、三人とも」
促された先を走る。
少し走ればそこに車があり、唸りをあげていた。
「おし、二人ともさっさと乗れ。一気に出すぞ!」
クロが運転席に飛び乗り、何かしらをいじる。
その間に私とリョーは後ろの席へと乗り込んだ。
「これなら行けんな」
「乗ったよ~」
「んじゃ、行くぞ!」
ぐんと音を立てて、動いていないのに重い感覚が襲い掛かる。
風を切って車は走り出した。