リュウは発つ
「ハクちゃん起きて!」
体を揺さぶられる感覚と、すぐ傍で私を呼ぶ声。
「ん、リョー? あれ、私寝てた……?」
目を開くと目の前にはリョーがいた。いつも明るい雰囲気を出している彼女に比べて、今のリョーはなんだから余裕が感じられない。
「キリミネさんが出て行っちゃった!」
その疑問は一瞬でどこかへ飛び去った。
「っ! どういうことなの!?」
体を跳ね起こしてリョーに詰め寄る。桐峰が出て行った?
「実はケヴィンさんもさっき気づいたって言ってて、用意していたバイクに乗って出て行っちゃったんだって」
「っ、時間は?」
「えっと、ケヴィンさんが言うにはキリミネさんが出て行ってから二時間は経ってる……って」
二時間。移動手段がある状態での二時間なんていったら相当離れたと仮定できる。でも一体、桐峰はどこに行ったの?
いや、焦っちゃ駄目だ。とにかく現状を把握しないと。
ベッドから降りて、部屋を出る。
隣を歩くリョーに余裕が無いのもよくわかる。正直いま取り乱していないのが不思議なぐらいだった。
「どこに向かったっていうのはわかる?」
「うん、それを伝えるからハクちゃんを起こしてってケヴィンさんに言われたの」
「なら、急ぎましょう」
早足は駆け足になって、廊下を進んでいく。
扉を潜った先にはケヴィンとクロがいた。
「あぁ、起きたか。気分はどうだい?」
「軽口を叩く暇は無いと思う。桐峰は?」
「その通りだね。結論から言おう。彼は一人で南の研究所に向かった。さっきログを漁ったらボクが独自に収集していた研究所の場所を見た形跡があったから、間違いないだろう」
ケヴィンから聞かされた言葉は、ある意味で予想できたことだった。だから驚くことではない。
「加えて、ボクが取り付けておいた車とバイクにマーカーが貼ってあってね、現在位置を把握することが出来るわけなんだが、どうやらそれは取り外されていた」
「外せるような場所に貼るからだろ」
「普通味方が用意したものを検めてマーカー外すなんてしないだろう?」
「ともかく、桐峰が二時間ほど前に出て行ったってことはリョーから聞いた。そうなると、もう研究所には到着してるの?」
「そうだね。この地図を見てもらえればわかるけれど、バイクをフルスロットで駆れば半日でたどり着く」
「ならまだ間にあう」
「おいおい、そりゃ無茶だよハク。車をまともに運転できるのなんて桐峰ぐらいなものだよ」
「いや、それならオレがやろう。一応車の運転なんかは知識として仕込まれたし、何回かは運転したことがある」
「ふむ、そうか。だったら任せるとしよう。ボクとしてはキミたちを止めようにも止める権利は無いしね。車には荷物と目的地までのルートがわかるようにしておく。その間に三人は準備してるといい。腹が減っては戦にゃ勝てぬ。最低限は食べといたほうがいい」
話はすぐに済んだ。
ケヴィンが準備を済ませてくれる間に、私たちは準備を整える。