セーフ、オッケー、よろしく
眼前にはなんの変哲も無い岩。
しかしここが、ケヴィンの隠れ家へと入る唯一の場所だ。
桐峰は岩へと近づきなにかしらをすると、切れ目も見当たらない岩が口を開いた。
「さ、入ろうか」
「おぉ~、なんかかっこいい!」
「確かに隠れ家って感じだな。リョーのところとはまた違った感じだ」
「私は何度か来てるから、あまり違和感はないかも」
桐峰が先導して、私たちは後をついていく。
全員が岩の内部へと入ったのと同時、岩の口を閉じて一瞬辺りが真っ暗になったけれど次の瞬間には足元を淡く照らす明かりが道筋を作っていた。
「やぁキリミネ、長らく連絡を寄越さないから心配したぞ! だが、此処に来たという事は無事だということだ。キミはボクの数少ない友人だからな、良かったよ」
「あぁ、すまない。途中で連絡しようとは思っていたんだけど、色々あってね」
「ふむ。それは、後ろの子達ということか」
「ああ」
白い廊下を抜けて、出向けてくれたのはケヴィン。
最後にある記憶と変わらない服装と姿で、彼は桐峰と握手を交わした。
「お久しぶり、ケヴィン」
「おぉ、ハクか。少し成長してしまったが、キミの魂は無垢なままだ。そのままのキミでいつまでいてくれ」
ケヴィンは私の前に来てそういうと、次は隣のリョーに向けられる。
「え、えっと~、リョーカ・ブルーノっていいます!」
「ほぅ……ふむふむ。なるほどなるほど。すばらしい、グッドだ! ようこそボクの家へ! 歓迎するよ!」
値踏みをするかのような視線にさすがのリョーも最初はたじろいだけど、なんとか挨拶した。
対するケヴィンはリョーの挨拶を聞いてから少し、目を瞑って何か頷いたりすると大きく目を開き、親指を立てた。歓迎するという言葉通り、リョーのことは気に入ったらしい。
「金剛玄だ」
「うむ、よろしく。クロ君でよいかな?」
「ああ」
クロの自己紹介は簡潔にぶっきらぼうだった。しかしケヴィンは特に害した様子は無く、手を差し伸べるて握手をした。
「さて挨拶をしてくれてありがとう。ボクはケヴィン。それ以上でもそれ以下でもないただの人間だ。まぁ、少し世俗からは離れて充実したひと時を送らせていただいているとも付け加えておこう。
ところで、お昼は食べたかい?」
ケヴィンの用意した昼食を食べた。
相変わらず色彩豊かなブッロク食品だったりしたけれど、それらはそれで不思議と美味しい。リョーとクロは初めて出されたものだから戸惑っていたけれど、私や桐峰にケヴィンが食べ始めるとそれに遅れて食べ始めた。とはいっても戸惑っていたのは最初だけで、すぐに形は変わってるけど普通に美味しいことがわかったためかその後は何事もなく平らげた。
「さて、桐峰。キミが今まで連絡をしてないのはまぁいい。だけど、キミ一人ではなくこうしてハクを連れてきたというのなら話は変わる。つまり、そういうことだな」
「あぁ」
食事を終えて、一声はケヴィンから桐峰に向けられたものだった。
その表情、眼差しは真剣そのもので、問いかけられた桐峰もその質問に短く肯定した。
「まぁ、わかっていたさ。そしてリョーカ、クロもというわけだな。まったく、ある程度は予想していたけれど多くてもあと一人だと思っていたぞ。キミの悪い癖だ」
「すまない。ただ少し急ぎでね」
「急ぎ? 桐峰が? なんだそれは、ただ事じゃない」
「クロには簡単に言って爆弾と毒が仕掛けられていてね。それを解除する必要がある」
「ふん、まぁ奴らならそれぐらいはするだろうな。今クロが寝ているのは何か関係があるのか?」
「あるといえばある」
「け、最悪だな。そういう糞ッたれなことをする奴を一人だけ知っている。中央で自分の作品に手を出されたくないとかいう理由でそういうことをする奴だ」
「キミにはできないということか」
「まことに残念ながらね。ボクとしても取り除いていやりたいのは山々だが、それをするためには最低でもデータが必要だ。それも膨大な。ここの設備なら直すことも不可能じゃないが、正直いってデータ不足だな。下手に手を出せば此処にいるやつ皆ドカンだぜ。
とはいっても、キリミネだってこれぐらいわかっていただろ?」
「最終的にはあそこに行くしかないからね。期待はそこまでしてなかったかな」
「友人冥利につきるね」
「というわけだ」
「まぁわかったよ。ボクとしては中央に最悪一泡拭かせられるだけでも上々だが、救える命を救わないのは目覚めが悪い。とはいえ、ボクじゃ中央に介入するのは難しいからね……方法は一つ」
「なんだい」
「南の研究所だ。あそこは長らく責任者の正体が掴めなかったが、最近になって戻ってきたらしい」
「大体わかったよ」
「とりあえず端末を渡してくれたあとはやってやる。それと、ここまで歩いてきたのか? ボクのようした奴は?」
「残念ながら」
「はぁ……。結構大変だったんだけどな。まぁいいや、全部で四人ならどっちにしろバイクなんて無理だしな。丁度いい、車は用意してある」
「ありがとう」
「ふん、友人だからな」
桐峰はケヴィンと一頻り話すと、ケヴィンだけ奥の部屋へと去っていった。
「さて、ケヴィンが用意してくれている間に色々とするとしようか」
そして桐峰が立ち上がる。
色々の部分と聞いて思い出すのはやはりトレーニングだ。
リョーは何が始まるのか気になっている様子だし、クロはがくんと頭が落ちた衝撃で目を覚ました。
「トレーニングだ」
案の定、桐峰はそういうのだった。