ちょっと変わった人
「わぁ~お、森の外って本当に荒野になってるんだね~」
東に位置した森を抜けて、私にとっては見慣れた荒野が見えてきたところでリョーが呟いた。
確かに考えてみれば、湖の周りは木々に囲まれた場所だ。そして恐らくあの湖周辺から離れたことの無いリョーにとって、この荒野は初めて見た光景ということになるんだろう。
「本当に、ってことはシャルロッテさんから聞いていたの?」
「うん、それもあるし市場の商人さんや漁師の人たちも言ってたんだ~」
「商人が言ってたってぇのはまだわかるが、漁師がなんで森の外について知ってんだ?」
「えぇ~と、確かあそこのシェルターは誰が作ったかわからなくて、あそこにいる人のお爺ちゃんとかそのまたお爺ちゃんたちは皆森の外からやってきた……って言ってた気がする」
「え、外から来たって……普通は防護服がないと死んでしまうんでしょう?」
「そうなの? でもそういう人たちがシェルターに集まって今が出来たって言ってたよ」
リョーの言うことが本当なら、おじいさんのおじいさんが森にやってきたときは人間が荒野にいても大丈夫だったのか、いられなく途中だったのだろうか。いやそれとも、そもそもの話……として、本当に荒野に出ると人間は死んでしまうのだろうか。見たことも無いものをどうやって証明すればいいのだろうか。
「ハクちゃんどうしたの、難しい顔して~」
「ん、いえ、なんでもないわ。多分私たちには関係のない話だから」
実際、人間と違い【因子保持者】である私にとって、前提が違う話を考えても仕方がない。
リョーのおかげで思考の泥に浸かりそうになった状態を抜け出せた。
「そういえば、ケヴィンの隠れ家って岩で隠れていた気がするんだけど、今も変わらないの?」
「そうだね。基本的に彼は自分の居場所を動こうとするタイプじゃないんだ。なんていうか、自分の身の回りに必要なものを全部用意するタイプでね。それを崩そうものなら完全に敵対するだろうし」
気を取り直して、私はケヴィンについて聞くことにした。そういえば、ケヴィンについて知ってるのはちょっと変わった服装にちょっと変わった場所いてちょっと変わったヒトというのが大きな印象である。
「まぁ変わり者だね。とはいっても思い込みとかで人を判断しないし、基本的にはいい奴だよ。ただまぁ、やっぱりちょっとだけ変わった趣向をしてるって感じだけど」
「アンタがそこまで言うって普通に変人じゃねぇか……」
どうやら桐峰の中でも変わった人扱いのようだった。ただ、私としてはちょっと変わった人程度というのが大きくて、桐峰が言うほどの変な人というのにはあまり実感がわかない。
「ボクは楽しみだな~」
「オレは不安だ……」
初対面であるリョーとクロの態度はほぼ間逆だ。
それを見て桐峰は苦笑いする。
「ははっ、大丈夫だよ。そうだね……リョーカは確実に歓迎してもらえるんじゃないかな」
「つまりオレはされないと?」
「うーん、どっちかっていうと普通かな。まぁ彼、男性だからね」
「その一言で大体察した……」
不安げだったクロの表情は、一転して呆れた感じ。何を察したのかわわからないけれど、彼なりに覚悟を決めたということなのだろうか。
「ケヴィンの所にたどり着くのは翌日になるし、もう少し歩いたら夜営にしようか」
桐峰の提案を拒否する人は誰もいなかった。