大事な寄り道
さすがに研究所で一夜を過ごすことは無く、宿へと帰った。
理由としてはリョーの旅支度をする必要などがあるからというのと、夜の方があの隠し通路から戻るのは容易だからというもの。
そして宿屋で夕食を食べての翌日。
「おっはよ~!」
朝食を終えて宿屋を出れば、背には背嚢を担いだリョーがいた。
「漁師の人には話してきたの?」
「うん、餞別にってお魚貰っちゃった」
取り出したのは紐で括られた魚。
もちろん生ではなく、干し肉のような加工をされており長期的な保存に向いていそうなものだ。
「ふぁ~、朝から元気だねぇ」
「あ、おっはよ~クロ君!」
「おう、おはようさん」
私に遅れるようにして出てきたのはクロ。普段と変わらず眠そうだけど、あの話を聞いてから本当に大丈夫なのか少しだけ心配だ。
「皆そろってるね」
最後に出てきたのは桐峰。宿屋での滞在費の支払いを終えたようだ。
「最終目的地は【中央】だけど、一旦寄りたいところがあるんだ」
「それって?」
「柏なら知っているところかな。ケヴィンの隠れ家だ」
聞き覚えのある名前に、私は頷く。
「え、ケヴィンの隠れ家ってこの近くなの?」
「さすがに少し歩くけれどね。ここが東なら、ケヴィンの隠れ家は南よりの場所にあるんだ」
「ってことは、ケヴィンのとこに行くときって結構移動してたってこと?」
「まぁそうだね。バイクを使うとそんなでもないけど」
確かに、ケヴィンの所に定期的に行っていたときは気にしていなかったけれど、こうして自分の足で歩くようになってからは地図で確認する距離と実際に歩く距離というのは凄い差があった。そう考えてみれば距離があるしても違和感がない。
「そのケヴィンってヤツは知らんけど、どうしてそこに寄る必要があるんだ?」
「うん、簡単な話が僕たちも結構な大所帯になってきたからね。移動手段がさすがに必要になってきたってところかな」
大所帯。見回してみれば桐峰、クロ、リョー、私。全部で4人だ。そこまで多くは無い人数ともいえるけれど、4人分で長時間の移動をするために必要な物資は多くなる。特に食料は大事で、運がよければ野生の動物をその日のご飯にすることができるけれど、水というのは雨が降るか川を見つけれなければ手に入れることができない。貴重性でいえば水がもっとも必要でかさ張ってしまっていた。
【因子保持者】である私たちならば多少は重い荷物ぐらいは運ぶことができるけれど、なんだかんだで追われている身である。山で【因子保持者】に追われたこともあり、その時は荷物もあって機動性が失われてしまうということがあった。
「というわけで、目指すのは此処」
地図を広げた桐峰が、一点を指し、なぞって止まる。
最初の位置が今私たちがいる場所であり、止まった場所がケヴィンの場所というわけだ。
「それじゃ、行こうか」
そして、私たちは緑豊かな東をあとにするのだった。