ハクの知らないお話
「それで、彼女はどうだい?」
――これは私を検査をしている時のお話だ。だから私は彼らが話していたことは知らないし、知る機会も一生無いだろう。
「前回測ったときよりも身長は1.3cm、体重は……乙女の秘密だから黙っておくけど増えてるね。けれど確かに彼女は成長期。成長している。ああ、成長してしまっている……」
「ケヴィン、僕が聞きたいのは――」
「わかっているよキリミネ。ちょっとした冗談さ。まぁ最初の頃からわかっていたことだけど、あの子はキミの『お仲間』だ。それは前にも話しただろう?」
「わかってる」
「ならストレートに言おう。彼女の覚醒は近いよ」
「……止めることはできないのか?」
「あまり言いたくないけど、無理だね。あの子は当然の話として、後天的に持つことは不可能だ。まず後から加えられでもしたら体は拒絶反応を起こして死ぬ。それこそ天文学的なレベルでならありえないとは言い切れないさ。実例が目の前にいるわけだしね。でも、まず無理だ。生まれた時点で彼女が覚醒することは決定付けられている。止めるというなら……それこそ殺してあげるしかない。キミの手で」
「それを僕に言うのか……」
「当然、ボクは客観的に物事を述べているだけだからね。それが最も確実であり、もしもが起きてしまったときでもキミならどうにか出来る。まぁそれ以外の案として述べるならば――おっと、検査が終わったようだ。じきに彼女が部屋に戻ってくる。話はいったん置いておこう」
ケヴィンが話し終えるのとほぼ同時に、検査のために出て行った柏が部屋に戻ってくる。桐峰も先ほどまで不穏な気配を出していたがすっかり潜め、彼女を笑顔で出迎えていた。
「よし、これで検査は終わりだ。おつかれ、ハク。
さて次はキミの身体機能のチェックだな。といってもいつもどおり好きに遊んでくれるだけでいい。しばらくしたら桐峰もそちらにいくから、ジュースとお菓子はその時に一緒に食べるといい」
「わかった。いってくるね、桐峰」
「ああ、いってらっしゃい柏」
柏はケヴィンに促されたとおりに部屋を出て行く。場所は遊戯室兼運動場だ。
「さて、あと少しだけ話をしておこう。あまり長引かせるとハクも寂しがってしまうからね」
「さっき言っていた別の案とは?」
「簡単な話さ。ヤツらの施設を全部壊滅させ、二度と同じことをさせなければいい。とはいってもその過程であの子は覚醒してしまうし、ヤツらは素直に壊滅させられるようなものじゃない。あまりいい賭けではないね」
「でもそちらのほうがまだやりようはある」
「そうだね。それはボクも否定しない。しかし必然として、『お仲間』とは敵対するよ。加えて『兵隊』だって出てくる。ボクとしてはオススメしないね」
「それでも……柏だけでも、守れるのならば僕は彼女を守りたい」
「意志は固いね。昔からそうだ。まぁわかって言っているボクもボクか。わかった、あまり時間を掛けるとそろそろあの子が寂しがってしまうし、大人の話は夜にするのが一番だ。責任は持てないがバックは出来る限り受け持とう。今はとりあえずあの子との時間を大切に過ごしてきたらいい」
「そうするよ」
桐峰は部屋を出ていく。見送るケヴィンは苦笑いをしながら自分の席に座るとディスプレイを眺めながら作業を開始する。今もまだ運動場で少女という年齢の女の子は部屋の中を縦横無尽に動き回っており、成人男性も顔負けの運動能力の高さをディスプレイに映し出していた。
「はぁ、本当に成長というのはイヤだね……」
「それにしても、スパッツはいいものだねぇ。プレゼントした甲斐があったというものだ」