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Factor  作者: へるぷみ~
青い少女は陽気に生きる
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シャルロッテ・レイニーレイク


 「あら、やっぱりここにいたのね」


 背後で扉が開く音と共に、女性の声が響いた。

 振り返ってみれば目を引くのは金色の長い髪と白い衣。シャルロッテさんだった。


 「多分リョーカならその子をこの場所に連れてくると思ってた」

 「ボクってそんなに単純かな~?」

 「うーん、それはどうかしら。ただ私は貴女がその子を研究所内で連れて行くとして真っ先に思いついたのが此処だったってだけよ」

 「暗にボクの行動はわかりやすい、って言われた気がする」

 「ふふっ、でもこの研究所を知っている人なら多分多くの人がここに連れてくると思うわ。私だって、きっとここに連れてきただろうから」


 互いに話す様子は、見た目は姉妹のようだけど親子だ。実際、シャルロッテさんはリョーを生み出したわけだから間違ってはいない。


 「そういえばシャル、ハクちゃんたちに自己紹介してなかったでしょ~。いつも人と接しないから挨拶とか忘れちゃうんだよ~」

 「あ」


 リョーの指摘に、シャルロッテさんが固まった。口を小さく開けて、それからすぐにやってしまったという表情になって、視線を彷徨わせたかと思うと私と目が合ってまた固まって。慌てたようで慌てないように震える手で眼鏡を押し上げると、何事も無かったかのように笑顔を作る。


 「そういえばそうだったわ。ごめんなさいね。そういえば私、貴女の名前もちゃんと聞いてなかったわ。もう、どうしてこんなことをミスってしまうのかしら……」

 「い、いえそんな。気にしないでください。とても緊張していれば普段以上の調子なんて無理だって読んでいますし、シャルロッテさんの場合は最悪この研究所がなくなってしまうかもしれないという状況だったんですから仕方が無いと思います」


 シャルロッテという言葉を私が紡いだときに、シャルさんは驚きに目を見張らせてすぐ、がっくりと肩を落とした。どうしたのだろうか。


 「私の名前を知ってるって事はリョーカに教えてもらったのよね。なら改めて名乗らせてください。私の名前はシャルロッテ・レイニーレイク。レイニーレイクはあまり好きじゃないから、シャルロッテの中から好きに呼んでください」


 どうやら自分が名乗るよりも先に娘のような子に先に紹介されていたことが判明してより落ち込んでいたらしい。しかしそれにめげないように姿勢を正すと、真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。

 だから私は、その瞳を正面から受け止めた。


 「わかりました。シャルロッテさん。私の名前は龍堂柏です。柏と呼んでいただけると嬉しいです」

 「ハクさん。柏さんね。わかったわ。龍堂という苗字は桐峰さんのものだけど……」

 「はい。えっと、シャルロッテさんならわかると思いますけど、私は【因子保持者ファクター】です。研究所にいた時の記憶は曖昧でほとんど覚えていないんですが、そこから出るきっかけになって今になっているのは桐峰のおかげなんです。そのときに、桐峰に」

 「そう……」


 多分、今の私の表情は自分でもわからない。あの真っ白な世界は真っ白なままで、思い出せることは何も無い。ただ、白。そんな私の様子をどう受け止めたのか、シャルロッテさんは微笑んだ。小さな笑みの中に、寂しげな何かも含まれる笑顔。

 それも一転、胸の前で手を合わせるてパンと音だ奏でる。おかげで暗い空気になりそうだったものが吹っ切れた。


 「そういえば、もう一人男の子がいたわよね? ここにはいないようだけど……」

 「クロは……なんでも寝たいからどっかそこらへんで寝てくるとか言ってどっか行っちゃいました」

 「まぁ。お昼を過ぎてすぐだから眠くなってしまったのかしらね。寝る子は育つっていうけれど、あれ以上大きくなるのかしら?」

 「さ、さぁ。でも何も無いときはいつも寝てるのが多いですね」


 話題がクロに移った。考えてみれば、クロは移動中なんかは足並みを乱すようなことをしなければどちらかというと喋るほうだ。話題の提供なんかもクロが多い。逆に私は話題が少なすぎるのかもしれない。

 どちらにせよ、彼は自由時間や少しでも間が開くと寝ていることが多い。本人曰く昼寝と日向ぼっこが自分にとってのライフワークだ的なことを言っていたこともあった。


 「あ、そういえばここって研究所だから【因子保持者ファクター】についての研究をしているんですよね?」

 「ええ、そうね。あまり気の進む話じゃないけれど、私も今の生活を壊したくは無いから研究をしては報告というのは欠かしていないわ」

 「ってことは、検査のための機器とかがありますよね?」

 「ええ。いくら人工的に生まれた生命とはいえ、何が起こるかわからないから定期的な検査はしているわ。でも、一体どうしてそんなことを?」

 「その、クロが私たちについて来ていることの一つに、自分の体に埋め込まれてる爆弾をどうにかする、って言っていて」

 「っ。爆弾……。ありえない話じゃない。逆に仕込んでいないほうが珍しいぐらいだわ。その爆弾の起爆条件とか聞いてる?」

 「確か、自分の意志でしか爆破することは出来ないということだけは」

 「なるほど。基本的に製作者側が任意で爆破するか本体の絶命時の爆破が条件だけど、本人の意思で決められてるって事はその彼が生まれた研究所にとってはそれなりに重要な人物だったってことなら納得はいくわ。保険は掛けるけど、それは最悪を想定してって感じ。人と思わない所業だわ。

  柏さんの言いたいことは、その彼の検査を行ってできるなら爆弾を取り除きたいってことでいいの?」

 「はい」

 「なら、いますぐ探しましょう。別れたのは多分私たちが部屋を出てからよね。ってことは三十分以上は経ってるけど……柏さんの言葉が確かなら寝てるはずだからどこかに留まってるはず。善は急げだわ、行きましょう」

 「はい」

 「なんかよくわかんないけど、クロくん探せばいいんだね? りょ~かい!」



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