一室にて
丁寧なお辞儀をした女性がいた。
髪は金色で長く、レンズ越しに覗く瞳は碧色。
隣にいるリョーよりも頭一つ分身長が高く、服に覆われていない手や顔は病的なほどに白かった。
「こちらへ」
面を上げると手で促して歩き出す。私たちはそれに従ってついて行った。
案内されたのは広くも狭くも無い一室。テーブルを挟んで椅子があり、白衣の女性と向かい合うようにして座る。女性の正面に座るのは桐峰だ。挟むように右にクロ、左に私が座る。
「ボクはハクちゃんの隣~」
「いや、こっち座っていいの?」
「だいじょぶだいじょぶ。ね~?」
「あらあら、そんなに気に入ったの?」
「うん!」
「あまり迷惑かけないようにね」
「は~い」
「それでいいんだ……」
最初の印象と違って柔らかく白衣の女性はリョーへと微笑むと、次に私と視線があった。
「でも、生きていて良かった……」
「?」
彼女の言葉に、私は首を傾げるしかない。まるで私を知っているような雰囲気だけど、私はこの人にあった記憶は無かった。
「申し訳ございません。【リュウ】。いえ、今は龍堂桐峰さんでしたね」
「はい。しかし、まさか貴女が研究所の責任者になっているとは思いませんでした」
「それは……そうですね。私自身、まだこの世界にいるというのにも驚いています」
「はは、僕としては貴女のほうはいるだけでもまだ救いがあるように感じます」
「ですが、結局は同じ穴の狢です。研究からは手を引けば口封じされることを恐れて、未だに続けています」
「それが【セイリュウ】ですか」
「はい。この研究所の存続においての最低条件は【リュウ】を使用した【因子保持者】を生み出すということ。【中央】の目を誤魔化すにはあの子を生み出さ無ければいけませんでした」
「それ以外のことはしていないから、この研究所を潰すことだけはして欲しくないと」
「率直に言えば」
「………………」
桐峰は腕を組んで黙していた。
盗み見してみてもその表情の真意は見えない。
「貴女には、借りがある。しかし、僕は信念として研究所を見過ごすことはできない。
……少し、この研究所を見させてもらっても?」
「はい。貴女が求める情報を、私が答えられる限りであれば」
「わかった。僕は貴女を信じよう」
「ありがとうございます……!」
二人の間に、過去で何かあったのはわかったけれど私にとってそれは悪いことでないと感じた。