暗闇を抜けて
かつんかつんと、音がする。
人が一人通れるぐらいの幅しかないため、手を横に伸ばせば壁がありひんやりとした感覚が手のひらに伝わってきた。
光が差し込んでいないため、足元には注意を払わなければいつ踏み外すかわからない。一歩一歩、確かめるように降っていた。
ちなみに列の並びはリョー、桐峰、私、クロの順番だ。リョーが先導役、桐峰はもしものために、クロは背後からの襲撃に対して身を守るための【甲鱗】があるからだ。よって、間に挟まっている私は完全に守られる立ち位置だった。
「もうすぐ階段がおわるよ~」
やがてある程度は降りたからか、一瞬だけ耳の奥がぽーっとした感じになってきたところでリョーが言った。
「はい、お終い~」
その言葉通り、階段を降りていたときのような一定のリズムの中に、違う足音が混じる。
「柏、足元に気をつけて」
次に、前で聞こえていた音は途切れて桐峰の声。
そして3つ段を降りたところで、私の足は床を平行に歩けるようになった。
「ふぅ、なんか頭が変な感じだぜ」
「多分高低差が変わったことで気圧が変わってるからだね。耳抜きをすれば治るよ」
「耳抜き? あぁ、んー、ふぁ~」
階段を降りたクロは、どうやら私と同じ状態になっているようで、それに対して桐峰が答える。そうか、これは気圧の変化で起きてたのか。
クロは少し考えた後に思い至ったのか、欠伸をした。
「お、治った」
どうして欠伸で治ったのかはわからないけれど。
私は唾を飲み込んだらいつの間にか治っていた。人によってあの症状は治し方が異なっているのだろうか。それとも、私かクロがおかしいのだろうか。
「少し歩くけど、もうすぐだからね~」
といって、リョーが進んだので、私たちはついていった。
相変わらず明かりの一つもないから足元も覚束ないけれど、壁に沿って進んでいく。
「は~い、光が見えてきたからもう少しだよ~」
暗い道を進んでいくと、いつのまにか通路の奥には光が見えていた。
光のおかげで足元も、前も影を伴って見えてきた。
進む距離はもうあとわずかで、すぐに光源の場所へとたどり着いた。
「【セイリュウ】で~す。件のお願いどおり連れてきました~」
先についていたリョーが、光源の下にある扉の横にある何かに向かって話しかける。
そして数秒後、扉が開いた。
ただ、扉の奥は小さな部屋。
リョーは迷い無く入ると、桐峰も中へと入る。
「さ、乗ってのって」
「乗る?」
「そ、これは乗り物なのです」
「これが……って、きゃ!?」
「ほれ、後ろがつっかえてんだから早く入れ」
「クロ、いきなり押されたらびっくりするでしょ」
「はいはい、悪かったな」
中に入るのを躊躇っていたら、後ろからクロに押されて強制的に中へと入れられた。
押した本人であるクロは悪びれた様子も無く中に入ると、扉が閉まる。
そして、小さな振動がしたかと思うと同時に、体が重くなった。
「な、なにこれ……」
「エレベーター、っていうんだよ~」
「えれべーたー?」
「うん。上下に動く部屋のようなもので、電気を使って動かしてる……って言ってたっけ?」
「リョーも詳しい原理は知らないのね」
「そりゃ~ボクは利用しているだけで管理しているわけじゃないからね~。移動に便利、ってことだけわかっていればいいのだ」
明るく言うリョーの態度に、えれべーたーでのこの不可思議な感覚に慣れてきた。というところで、ちん、という音を立てて体に圧し掛かっていた重みが消える。
扉が開いた。
「お待ちしておりました、皆様。歓迎いたします」
「ようこそ~、ボクらの研究所へ~」
扉の先には白衣を纏った女性がいた。