あーんしてあーけておーりて
「あ~ん♪」
「…………」
「ほらほらハクちゃん、早くしないと溶けちゃうよ~」
「あ、あむ」
「ひゃ~、ハクちゃん可愛い~!」
「むぅ」
口の中で溶けて広がる甘み。
ひんやりとしているのに少し硬くて、だけど時間が経つにつれて液体になっていく。
アイスを食べていた。
先ほどリョーがとんでもないことを言ったが、それに反応するよりも先に桐峰たちの昼食とリョーが頼んでいた品が運ばれてきたので話は一旦中断。それぞれがそれぞれ食べることに集中することとなった。
そして、リョーが頼んだものはアイスだった。ただ、そのアイスの食べ方がちょっと特殊な上に食べるための匙が一つしか用意されていなかったが上でこの状況になっていた。
出されたのは出店でも食べた普通のアイスだ。ただ管を巻くようなものではなく、一つの塊のような形のアイス。それに付いてきたのは乳褐色の温かな飲み物。コーヒーにミルクを足したものだ。それをアイスの乗っている器にかけて食べるらしい。
リョーは慣れた手つきでミルクコーヒーをアイスにかけると、匙で掬って食べる。冷たいものに温かなものをかけて食べるというのは物珍しいというか斬新というか、あまり考えたことがない食べ方だ。
そしてそこまでならよかった。ただリョーはそれを私と分け合うつもりで頼んだわけで、行われたが先ほどの行為だった。ミルクコーヒーに使ったアイスを掬ってこちらへと差し出して、食べさせようとする。いや、そこは普通に匙を渡してくれたら食べるのにという無言の視線を送ったが、わざとか天然か無視された。ただなんとなく前者だろうということはわかる。なにせ、リョーは微塵も匙を渡すつもりも無ければ店員を呼んで匙をもう一本持ってきてもらおうという意志が感じられなかったからだ。
「あぁ~しあわせ~」
「私はそうじゃないんだけど」
至福の笑みを浮かべて匙を進めるリョー。ただ一方的に食べるというのは彼女的にはないのか、一口食べては私に差し出すというのが繰り返されていた。
「正直、雛が親から餌をもらってる感覚がこんなだというのを知れたぐらい」
「ボクはハクちゃんがちょっと嫌そうな顔しながらもアイスを食べた瞬間だけは可愛い表情を見せてくれるのがもう言葉にできないぐらい最高~なの!」
「いい趣味してるわ、貴女」
リョーの態度に私の言葉も段々と投げやりというか、いちいち気にしていたら負けというか、雑なものになってきたかもしれない。そう考えると、私が素で話しているのはリョーが初めてになるのだろうか?
「あ~、美味しかった~。ね、ハクちゃん!」
「まぁ、アレさえ無ければね」
「え~、アレがあったからこそじゃない~」
コブシよりも一回り小さいアイスを二人で分け合っていたから、アイスが無くなるのは自然早かった。とはいえ私たちの食べ方は非効率もいいとこで、食べ終わったときには桐峰とクロもほとんど食べ終わっていた。
昼食が終わったら店を出た。そもそもお昼を食べる為に戻ってきたというのもあるし、宿兼食堂を営んでいる以上お昼の時間はお客も多く来る。店の迷惑になるわけにはいかないので、早々に支払いをすませて歩いていた。
「それで、研究所に招待するという話だけど」
「うん、なにか質問?」
「僕たち……いや、正確には僕がこれまで何をしてきたかということぐらいは把握しているだろう? それで、招待するというのかい?」
「あ~、まぁ確かに他の支部がやられてるみたいですけどそれとこれとは話が別ですね~。確かに所属している機関は一緒みたいですけど、実質研究所間で交流がある場所なんで皆無らしいですし、あっちがやられたから次はこっちがやられるかもしれないぐらいの危機感は抱くかもしれないですけど、それでも他人事みたいですね~」
「それが君のところ研究所の見解というわけか」
「はい~、何でもお互いがお互いを利用しあうのが研究者だから、必然的に自分の成果を盗まれたくないとか先を越されたくないとかで~」
「頭の良すぎる人の悪い例だな……」
「ですね~」
無論、この会話は周囲には聞こえないようになっている。それを行っているのは桐峰のようだけど、私から見て今彼が何をしているのかなんてわからなかった。
ちなみに、今の歩き方は私の隣にリョー、逆に桐峰の一塊。そこから少し後ろではクロが付いてきているけれど、話に混ざってこないのが不思議に思って振り向いてみれば、半分以上意識を落として歩いていた。どうりで静かなわけだ。
ちなみに私を挟んで話している二人の会話は嫌でも耳に入るので、聞き逃すことはなかった。
「まぁキリミネさんがどうやって他所を潰してるはどうでもいいんです。とにかくうちは壊さないでもらえると助かるそうで~。それを伝えるためにこうしてボクが来たというわけです」
「僕としても無闇に襲っているわけじゃない。研究所で行われていることにもよるけれど、真っ当であれば襲撃することだってない」
「まぁ、ボクたちがいるのが普通なところですけどね~」
「それだけに、不当な扱いを見過ごすわけにはいかない」
「ともかく……あ、ここですよ~。ついて来て下さい~」
二人の話を聞きながら、いつの間にか港に来ていた。周囲に人気はなく、そこは大きな倉庫のような場所。
一応企業秘密だよ~、とリョーは言って倉庫の扉隅へと行くと、何かを開いてごそごそと何かをしはじめた。
「ここを~、こうして~、こうやって~。
ひらけ~、ご~ま~♪」
作業を終えたらしきリョーが戻ってくるのと同時に、倉庫の扉が開く。
「これは……」
「うん、まぁ隠し扉だよね~。漁師の皆には、内緒だよ?
さ、こっちこっち~」
開いた扉の奥、そこには地下へと向かう階段があった。