宿屋に戻って話し合い
宿屋に戻ると、既に桐峰が待っていた。隣にはクロもおり、彼を認めてそういえばはぐれていたということを思い出した。
といってもそのことについてクロは気にしていないらしく、曰く『ハクが出会った相手がリョーカ・ブルーノってわかった瞬間に探す必要も無くなったし、周囲は特に問題もなかったから宿に帰って寝る事ができたたから逆に助かったぜ』とのことで、一眠りできたからなのかクロの表情は朝よりも良くなっていた。
「それで、そちらがリョーカ・ブルーノさん?」
「う、うん」
「初対面だよな?」
「うん」
「の割には、べったりくっついて離れねぇじゃねえか」
「♪~」
食堂に座る。正面には桐峰とクロ。隣にはリョーがいた。リョーは何故か宿屋に入ってからは私の腕にしがみついていて、今も離れる気配は無い。ちょっと熱い。
「まぁ仲がいいに越したことは無いよ。それに、柏の肉体年齢と近い女の子の友人の役目は僕たちには勤まらないからね」
「にしても、一体ハクのどこが気に入ったんだ? 性格とか真逆だし」
「そうかい? じゃあリョーカ・ブルーノさん、柏を気に入ったのはどうしてだい?」
「一目惚れです! 可愛いです! ビビッときたんです! ハクちゃんが可愛いのです!」
「一目惚れ……そういうもんなのか?」
「そういうものなんです!」
「ははっ、でも人に好かれることは悪いことじゃない。純粋な好意を向けられて嫌という人はそうはいないさ。いても、そういった感情をぶつけられることに慣れていない人もいるだろうしね」
「そういえば、えーっと……」
「僕は龍堂桐峰。桐峰と呼んで欲しい」
「金剛玄だ。クロって呼んでくれ」
「じゃあボクも。知っていると思いますがリョーカ・ブルーノです。気軽に呼びやすいように呼んでください!」
私が置いてきぼりを喰らっている間に3人は挨拶を済ませており、リョーは初対面であるはずの桐峰やクロに対しても臆することなく私が最初に出会ったときと同じ態度で彼らに接していた。印象に残るのがその笑顔だ。桐峰の柔らかな笑顔とはまた別の笑顔で、見る人が釣られて笑顔になってしまうような、そんな明るい笑顔。それを彼女はごく自然に、絶やすことなく笑っていた。
「――さて僕たちがリョーカを探していたのはもう知っているかもしれないけれど、改めて。僕たちは君と話したいと思っていたんだ。いいかな?」
「は~い、全然結構です!」
「うん、ありがとう。ところで今はお昼時だけど昼食のほうは?」
「あ、それならその、市場を歩いているときにリョーと食べ歩きをして……」
「そうだったのか。それならそれでよかった。市場の料理はおいしかったかい?」
「うん」
「そうか。それじゃあすまないんだけど、僕とクロはまだ昼食は戴いていないから、食べながらでも構わないかい?」
「大丈夫です。あそうだ、丁度いいから甘いものでも食べようかな~。ハクちゃんも一緒に食べよ?」
「え、でも、それは……」
リョーの誘いに戸惑って桐峰のほうを視線だけ向けると、彼は何かを言うことなく無言で頷いてくれた。それに少しだけ安堵して、リョーのほうへと視線を戻す。
「うん、大丈夫」
「ほんと!? やった~、それじゃ店員さ~ん」
そうして桐峰とクロはお昼をリョーはおやつを頼む。
「それじゃあお昼が来るまで、少し聞かせて欲しいことがあるんだけど」
「はいはい~、なんでしょ~?」
「……君は、【因子保持者】だろう?」
桐峰の単刀直入な言葉が、私たちの4人の間に響く。
「……桐峰、ここでそれは……」
「周りには聞こえないようにしてあるから安心して。それに、彼女はこれを知ったうえで今この場にいる」
「え……」
「そうだろう、リョーカ・ブルーノ。もとい、【セイリュウ】?」