探す振りして食べ歩く
「ほらほら~、こっちだよハクちゃん!」
「ちょ、ちょっと待ってリョー」
一通りリョーにもみくちゃにされたところで、ようやく離れてくれた。
そう思った矢先に手を掴まれたかと思えば引っ張られて先導し始めてしまい、無理に振りほどくのも悪いという気持ちから放すことができずにいた。
「ハクちゃんはここ初めてなんでしょ~? だったらボクが案内しましょう! そして市場ときたら食べ歩き! 大丈夫大丈夫お金はちゃんとボクが払うから!」
それに、明るい笑顔で語りかけてくれる彼女を無下に扱うというのも私には難しくて、心のどこかでは無邪気な子供に付き合っている感じというか、憎めない強引さがリョーにはあった。
「そ、それは別にいいんだけど……」
「ん、どうしたのハクちゃん?」
「さっきリョーを一緒に探してたクロ……友人とはぐれてしまったの。一応お昼になったら合流場所を決めてるからそこに行けばいいんだけど。その――」
「じゃあ一緒に探そう! 市場ではぐれるのは良くあることだから、食べ歩きながらさがそ~」
「食べあることは止めないのね……」
そうして、私とリョーはクロ探しという名の食べ歩きが始まった。
リョーは市場の人たちにも顔を覚えられており、挨拶するされれば明るく挨拶を返し、食べ物を扱っている人が勧めていけば素直に買って食べていた。もちろん有言実行、私の分も買ってくれた。
魚介を扱っているシェルターだけあって、食べるもののほとんどは魚を焼いたものや煮たものスープにいれたもの、はたまた魚の肉を細かくして団子にしたものなどと種類は数多かった。
「ん~、甘いものもおいしいね~」
「うん」
塩気のあるものを食べていれば自然と甘いものも食べたくなって、リョーも同じ考えだったのか目に付いた出店が丁度良く家畜から採れるミルクを使ったソフトクリームを買って食べた。
結局クロを探した記憶がなく、気づけば私とリョーは隣あって歩いていたし、繋がれていた手も放すことは無く時間は過ぎていった。
「そういえば、そろそろお昼の時間。合流場所に行かないと」
「えぇ~。もうそんな時間なんだ」
「うん、だから――」
「ならさ、ボクも一緒に行っていい?」
「それは――」
それは、どうだ。
さっきまでは何も考えずに食べ歩きをしていたけれど、リョーは【因子保持者】である可能性がある。だけど今回の目的はリョーを探すことで、今目の前にはリョーがいて。つまりリョーを連れて行けばいいわけで。
「うん。わかった。多分だけど、大丈夫」
「やった~! それじゃあ行こ~」
「もう、いきなり引っ張ると困るでしょ。それに――」
「それに?」
「私が行く場所、わかるの?」
「あ、あはは~」
無論リョーが知っているわけはなくて、私は宿へと戻るのだった。
繋いだ手は放すことなく。