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Factor  作者: へるぷみ~
白い少女の物語
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似ていて違う場所


 バイクが止まった。目的の場所に到着したということだ。

 唸りをあげていたエンジンは息を潜め、バイクから降りた私と桐峰は大きな岩の前に立っていた。桐峰はバイクを手押しで進めながら躊躇い無く岩へと向かうと、何の変哲も無い岩肌は音も無く口を開いて私たちを招き入れた。いつ見ても不思議だが、ケヴィンのいる所へ向かう度にここを通っているため今では驚くことはなくなっていた。


 車庫とされる場所にバイクを置き、シェルターに入るときと同じ滅菌消毒を行い施設の中にはいる。私の記憶にある白い世界に似た空間ではあったが、明らかに違ったのは廊下に飾られている絵や像があって色とりどりだということ。来るたびに種類を変える絵や像たちを眺めるのはここに来たときの私の楽しみの一つだった。


 「やぁ、よく来たねキリミネにハク」

 「やぁケヴィン」

 「こんにちは」


 一本道の廊下を歩いて突き当たった部屋に入ると、長袖パーカーに白衣を羽織り、半ズボンにサンダルを履いた男性だった。季節感を無視した服装でありながら、必ず白衣は羽織るというのはケヴィンのポリシーのようなものらしい。

 私と彼が出会ったのは一年前。『白い世界』から連れ出してもらった日から一日後のことだ。曰く実験体として生きていた私は外の世界に出てしまったときに何かしらの不都合が起きるかわからない。そのためには私の体を調べる必要があったとのこと。


 「ハクは前にあったときよりも髪が少し伸びたようだね」

 「身長も伸びた」

 「ああ、そうだったね。身体が大きくなってしまうのは少し残念だけど、無垢なキミの精神は眩しくて見ていて心地がいい」

 「? それは褒めてるの?」

 「もちろん褒めているさ! ただ、ボクとしてはやはり愛らしいキミが大人へと近づいていしまうのが……」

 「ケヴィン、それ以上は柏の教育によくないからやめなさい。それよりも、今日はいつもの定期健診だ」

 「おっとそうだった。まぁキミたちが今日の今頃に来ることはわかっていたからね。準備はもう出来てるよ。それじゃハク、いつものところで着替えて検診だよ」

 「わかった」


 ケヴィンの所に来てすることは決まっている。部屋を出てすぐ左手すぐの扉に入って服を脱いで、検査ようの白い服に着替える。白い世界で着ていた服に似ているけれど、服の所々にはお花の刺繍がされている。

 着替えが終わったら廊下に戻って正面にある扉に入る。検査の内容はたくさんあって、身長や体重に血圧からレントゲン心電図エコーと他にも多くのことをする。検査の中で一番苦手なのは採血だけど、その時だけは桐峰が傍にいてくれるから我慢できる。外の様子がわからないからどれぐらい時間が掛かっているのかはわからないけれど、だんだんと退屈だと感じてくるということは長いんだと思う。それでもいずれは終わって、私は検査のために着ていた服からさっき脱いだ服を着ると、桐峰とケヴィンがいる部屋へと戻る。


 「よし、これで検査は終わりだ。おつかれ、ハク。

  さて次はキミの身体機能のチェックだな。といってもいつもどおり好きに遊んでくれるだけでいい。しばらくしたら桐峰もそちらにいくから、ジュースとお菓子はその時に一緒に食べるといい」

 「わかった。いってくるね、桐峰」

 「ああ、いってらっしゃい柏」


 そのあとにすることもいつも通りである。走ったり登ったり跳んだり好きに身体を動かす。体を動かすのは楽しいから好きだけど、一人でやっていると段々寂しくなってくる。そうすると、桐峰が部屋に入ってくる。


 「おまたせ」

 「桐峰!」


 崖登り―確かロッククライミングっていうらしい―をしていた私は桐峰が部屋に入ってくるのを確認して取っ手を掴み体勢を変えると桐峰に向かって跳んだ。それをいつもと変わらない笑顔で桐峰は私を受け止め抱いてくれる。


 「ははっ、元気だね。でも危ないから気をつけて」

 「うん。でも桐峰が受け止めてくれるって信じてたから」


 そう言ってくれるのは嬉しいけどね、と桐峰は言うと私を抱きなおして部屋の中央にある椅子に座らせてくれた。桐峰はもう一つの椅子に座るとテーブルを挟んで向かい合う。テーブルの上にはケヴィンが言っていたジュースとお菓子があって、私たちはゆっくりとした時間を過ごしたのだった。



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