リョーカ・ブルーノ
「うちのシェルターは、『キタコ』と呼ばれていてな。なんでも湖のキタに、あるからそう呼ばれてるらしいんだが、まぁ基本的にシェルター籠もってる俺等にゃそこんとこはどうでもいいんだ。
重要なのは、湖で漁ができること。コレのおかげで捕りすぎにさえ注意してれば食糧問題はほとんど気にしなくていいんだ。
しかし、数年前は漁ができなかった。その理由も簡単でな、湖には危険な水棲生物がいるんだよ。だから、船を出して魚が捕れても、そいつ等に見つかっちまったらおしまいだったんだ。加えて湖に面してあるほかのシェルターとの行き来も湖ではできなくてな。目の先には目的の場所は見えてるっていうのに陸を大きく迂回しながらでしか行くことができない。まぁ困ったもんだったよ。なにせ、シェルターの外には湖の危険生物と危なさはほとんど変わらない動物たちがいるんだからな。
え、外は防護服を着ていないと危ないんじゃないのかって? あー、それか、確かにその疑問はわかる。現に、俺たちのシェルターも外からの旅人には除染してもらってるしな。けど、どうにもこの周辺……特に湖の周囲は不思議なことに生身で外に出ても平気なんだ。不思議なことにな。特に、湖の上で体調を崩したヤツはいないぜ。あ、船酔いするバカはいるか。まぁそれは置いとこう。ともかく平気なんだ。
で、今までは水棲生物のせいで湖での活動ができなかったのに今はできるという話をだな。これはなんというか、ほんとにいつ頃からなのか一人の少女がやってきたんだよ。で、船を出してくれって言ったらしくてな。そりゃあ当然ほとんどのやつらは嫌がったぜ。湖にでたら命が危ないんだ、誰だって我が身は愛おしい。俺だって愛おしい。話が逸れたな。ともかく、そのうちにその少女が湖に船を出したときに何かあったら自分が何とかするなんて世迷言を抜かしたときは呆れるどころか大爆笑だったな。お嬢ちゃん、君はあいつらの事を知らないからそう言えるんだ。もし本当に大丈夫だってんなら、俺たちにその証拠を見せてくれ。ってな感じでな。そんで翌日のことだ。寂れちまってほとんど使われていなかった港にな、いたんだよ。でっけぇアイツが一頭。長い胴体に鋭い牙、見ただけが震えちまうあの水棲生物がな。びっくりしたのはそいつは生きていなかった。魚特有の死んだときの濁った眼は未だに忘れられないね。そしてあの少女がいったのさ、これなら平気でしょ、って明るい声と表情でな。最初はそりゃ怖くなったね、なんせ俺たちがあれだけ手を焼かされた相手を単身でどうやったのかは知らないけど仕留めちまったんだ。下手にバカにしたらこっちが危ないんじゃないかって思ったもんだよ。でもな、そこからがまぁ可笑しな話だ。これから漁に出るときや別のシェルターへいく場合、船の護衛を引き受けるって言うんだぜ? 俺たちは見返りは何だって聞けば、明るくて活気のある場所にしてほしい、なんてことをニッコニッコの笑顔で言いやがった。俺等もつられて苦笑するしかなかったね。けど、その少女のおかげで今のシェルターがあるっていうのが事実だ。あの子がいなけりゃこのシェルターだって他のシェルターと変わんない場所だった。俺たちにとって見れば、あの子はこの湖の女神だね。
あー、つい話に熱が入っちまったな。まぁこんな感じでいいかい? 時間は大丈夫さ、今日の仕事は終わったらしばらく休みだからな。人に話すのは嫌いじゃないし、いい気分転換にもなったよ。そんじゃ――え、その少女はなんて名前かだって?
まぁそんぐらいならいいか。名前は『リョーカ・ブルーノ』。俺たちの間じゃリョー、リョーカ、ブルー、って呼ばれてるぜ」




