彼の者は竜、翼を持つ者也
そして、長く短い3日間が過ぎた。
正直一日目は食欲が湧かなくて干し肉を一齧りして水で飲み込むのがやっとだった。
2日目は昼は塩と水、夜はなんとか糖分と水を摂取した。
3日目は余裕があったおかげか朝昼夜と最低限の食事をすることができた。
そして4日目の朝。ここまで桐峰とクロは合流しなかったため、私はシェルターへと向かう日だ。
結局私は目の前にいるラグナスが食べる姿も寝る姿も見ることはなかった。といっても夜になれば疲労でまともに起きていられなかったという事もあって寝ている間に食べて寝てをしていたのかもしれないけれど。
一応、食料にはまだ余裕がある。幸か不幸かまともに食べれていなかったということもあるというのは複雑な気持ちだけど。
そんなことを思い返しながら朝食の栄養ブロックを食べていると、傍で立っていたラグナスが扇をぱちりと閉じた。
「ふむ、こんなところでしょう。
かれこれ3日ですが、柏さんも自分の力をある程度は使えるようになったようですので」
「それはどうも」
この3日間のおかげで私のラグナスに対する態度は大分雑になったと思う。なにせ教え方が教え方だ。起きている時間よりも地面に転がっている時間のほうが長いかもしれない。
とはいえ、そのおかげで私は自分の【因子保持者】としての力を結構扱えるようになった。といっても、ラグナスからしてみればまだまだらしいが。
「確か、柏さんは今日此処を発つんでしたよね」
「ええ、今日まで桐峰とクロが来なかったからシェルターに向かうわ。ラグナスも行くんでしょう?」
「ふむ、それなのですが――」
――おーい!
ラグナスが扇子を開いたところで、背後から声が聞こえた。
「この声、クロ?」
「どうやら柏さんのお仲間のようですね」
「そうみたい」
「でしたら、ぼくはこの辺でお別れとしましょう」
「なんで?」
「それはちょっと答えにくいんですが……そうですね、柏さんには特別ですよ? ぼくが竜という証拠をみせましょう」
「それって――」
『このように』
「――!」
少し目を離したかどうかという瞬間に、目の前には黄金の鱗、紅眼の双眸と長い尾は図鑑で見たトカゲのようだがしかし、一対の翼がそれを否定する。本の中でしか見たことがない竜がそこにはいた。
「大きい……」
『これでもぼくは若いのですが。それも竜の話であって人間の尺度で測るなら長い年月を生きているのでしょうね。
まぁそんなわけで、これでお別れです』
「……正直、飛べるんなら迷ったって嘘だったって事よね」
『そうですね。とはいっても、柏さんと出会ったのは本当に偶然です。ただその道中を同じにするには竜が必要でしたので、急造でしたが』
「はぁ……。まぁ当然か。あなた、最初からシェルター行くことは興味なさそうだったし」
『ええ、というわけで今度こそお別れです。あぁもちろん、この後に来るお二方には秘密ということで』
「……しょうがないわね。わかった」
『ありがとうございます。では』
そして、黄金の竜は飛び立った。といっても飛んだと思ったのは突風が吹いたというのと突風で視界が塞がれてまともに見れるようになるときには黒く小さな影が遥か彼方へと去っていったからというだけのもの。
「おーい柏、いるかー?」
振り返れば、もうすぐ近くまでクロの声がした。
私はその声に応えるように、荷物を持って走るのだった。