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Factor  作者: へるぷみ~
白い少女の物語
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煤けた空


 この世界の空は煤けている。

 なんでも遥か昔は青い空で、見たことは無いけれど海も青く輝いていたらしい。

 それがいつからか青い空は姿を消して、煤けた薄暗い空にとって変わっていた。世界に光を降り注いでいた太陽もいつの間にか煤けた空の向こうへ隠れてしまっていた。

 大地は荒れていた。辛うじて道と呼べるものは存在するけれど、アスファルトと呼ばれる舗装路のところどこには茶色の草が点々と生えていて、掠れてなんなのかもわからない白い線や錆びて折れた鉄柱が所々に存在していた。

 地上に人が住む場所は無い。というのは少し語弊があるが、生身の人間がこの荒れた大地に長くいると体調を崩して最終的には血を吐いて死ぬらしい。だからこそ人々は今までの生活圏を放棄して、限られた人々だけが住まうシェルターへと逃げ延びたのだった。

 私と桐峰はシェルターには住んでいない。その理由を彼から聞いたことはあったけど、確か『僕たちは平気なんだ。理由は……そうだな、柏がもう少し大きくなったら説明するよ。今は君が背負う必要は無いからね』といっていた。だからいずれ教えてもらうまで、考えなくていいことなんだろう。


 一応シェルターに住む人たちは防護服と呼ばれる全身スーツを着ることによって限られた時間でも外に出ることはできる。シェルターに出る理由としては外の調査や他の場所にあるシェルターへの物資の交換など、狭い世界の中で人々は生きていた。

 外からシェルターへと入るには入り口の二重扉の一つを潜って滅菌洗浄し、危険物を持ち込んでいないかの確認、最後に顔写真と名前を入力してようやく入ることができる。防護服は滅菌洗浄されたら脱いで保管される。


 ともあれ、生活圏を大きく失った人類は――シェルター外に個人での施設を持つのは希少――シェルター間での移動には大きく時間が必要であった。この荒廃した世界で人類はまともに外を出ることは出来ないが、人類以外はそうではなかった。急激な環境の変化と人の監視がなくなったことによる動物たちの異常進化と野生化そして生態系の変化はシェルター間を移動する者たちにとって最大の敵ともいえた。


 長距離移動において桐峰が用いているバイクは特殊らしく、これから会いにいくケヴィンが彼のために作ったという。本来は荒れた大地でも安全に走行でき、物資の積み込みや人員を多く乗員させることができる四輪駆動車のほうが向いているのだが、彼はバイクに跨っていた。

 シェルター間での移動において長い時間が掛かるのと同様に、バイクでケヴィンの処へと向かうにはそれなりに時間が掛かる。彼はこの荒廃した大地でも稀有な個人でのシェルター持ちで、そのシェルターも彼が個人で建てたため外界で知る者はほとんどいないというのをケヴィンは自慢げに話していた。


 ケヴィンのところでの用事がどれだけ掛かるかはわからないけれど、向かったあとは彼のところで一夜を過ごしてから帰るというのがいつもだった。朝から家を出て着くころにはお腹が空いているから、それぐらい長い時間を移動してるんだろう。私はヘルメットの狭い視界を流れていく景色を眺める。廃墟と化して風化した建物、割れた大地に広がろうとする植物、弱肉強食という中でその日を生き延びる動物たち。煤けた空の下で、私たちは今日も生きている。


 


 

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