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Factor  作者: へるぷみ~
玄い少年は怠惰でありたい
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彼らは己の檻を自ら壊す


 

 目的の部屋も今いる曲がり角を進んだ先にあるところまで来た。角からを顔を出そうとしたらクロに止めとけと言われた。


 「どう?」

 「んーまぁ、出来てはいるぞ」


 私は自分の姿を見ることは出来ないからわからないけれど、どうやらうまくいったようだ。

 というのも私が暴走していたとき、【因子保持者ファクター】としての能力が発動していたようで、そのときには髪の色と目の色が変わっていたという。髪は白を基本として黒の縞々模様、目は琥珀色から蒼色になっているらしい。

 そして使えるものを使えないといけない以上、私よりもそういったことに長けているクロに聞くのが一番だった。ただ答えとしては簡単なもので、『戦意を高揚させれば自然と成る』とのことだった。


 「なんか、落ち着かない」

 「いわば興奮状態にあるからな。ちゃんと意識の手綱を握ってないとまた暴走するぞ」

 「気をつけるけど、難しいわ」

 「何事も慣れだ」

 「そうね。それじゃあ、よろしく」

 「んー」


 体は軽い。顔がちょっと火照って動悸もあるけれど、悪い感じじゃなかった。

 曲がり角から体を出して、駆ける。確かに正面には扉とその両脇には2人の黒づくめの男たち。姿を現した私の姿を認めると、銃を構える。


 「襲撃者か!」

 「子供だぞ……」

 「この研究所を襲撃しているということは【因子保持者ファクター】だ、油断したらこちらが殺されるぞ、撃てぇ!」


 発砲、秒間十数発の弾丸が銃口から放たれる。銃弾の嵐は暴走していたときに眺めていたからわかっていた。これを掻い潜ろうとするのは愚作だ。床を蹴って壁を蹴り、射線から体を脱出させる。


 「くそっ、やっぱりだ!」

 「監視室、敵襲だ応援を頼む」


 銃を放つ手を一人は止めることなく、一人は端末を手にとって監視室される場所に連絡していた。連絡が終われば再度発砲。その間にもう一人はリロードをして撃つというように銃撃は止むことなく私へと襲い掛かる。

 銃弾を避けるのは難しいことではなかった。ただ近づきにくいのは確かで、無理に近寄るのは危険だ。一発でも被弾すれば蜂の巣になる可能性がある以上は攻め手にあぐねていた。しかしそれでよかったのだろう。逃げれば逃げるだけ彼らの視線は私へと引き寄せられていた。そうして彼らの視界がほぼ上を向いている状態で一人の弾切れが起こりリロードのためにマガジンを取り外そうとするのと同時、


 「おらぁ、跳ね飛ばされたくなければそこをどきな!」

 「な、【ゲンブ】!? 裏切ったのか!」

 「裏切るも何も最初から仲間じゃないっての。それよりどかねぇと壁に真っ赤なお華が咲くことになるぞ」

 「くそっ」

 「どいてくれて、あ り が と さ ん!」

 「くそ、入り口を壊されたッ」

 「それよりも、もう一人の方―「ごめんなさい」―がっっ」

 「ち、この―」

 「殺したくはないの」

 「ぐっ、そ」


 クロが扉を破壊して部屋に入ってくれたおかげで男たちに隙が生じ、その間に鎮圧することができた。力を出来る限り押さえて殴ったけれど、殴った感触で肋骨のヒビか骨折は免れないだろう。

 それよりも、クロに続いて部屋に入る。さきほど気絶させた男の一人が応援を呼んでしまったから、のんびりしていれば増援が着いてしまう。


 「クロ!」

 「おう、ちょっとハクもこいつらの説得してくれ」

 「人に任せとけって言っておいて投げないで」

 「しょうがねぇ。こいつらとは顔見知りだが、こいつらにとってはきっとお前のほうが伝わることがある。外を経験しているからこそだな」

 「「「………………」」」


 そこにいたのは私より少し小さいぐらいの少年少女たちだった。それぞれがそれぞれに人間とは違う特徴を持っており、犬の耳や猫の尻尾はまともな例で、四肢が蹄の者なんかもいた。此処にいる子全てが【因子保持者ファクター】であり、生まれてからの全てをこの中で生きてきたのだろう。

 私がこの子達に伝えられるのは知らない世界を知れるという喜びのきっかけを与えるだけ。それぞれがそれぞれに世界に対して感じることがある以上、一方の意見を述べるのは正しいことではなかった。


 「ここを出ればね、空があるの。空があって、大地があるの。限られているけれど人々の営みがあるの、温かい食事があるの、ふかふかのベッドで眠れるの。生きるっていうのは大変なことだけれど、それ以上に楽しくて、美しくて、何より狭い部屋でも低い天井でもないの。どこまでも続く大地があって、手を伸ばしても跳んでも手に入らない空があるの。

  私は、そんな世界を皆に見て欲しい。生きて欲しい。自由であってほしい」


 私の拙い言葉を、彼らは何かを言うことなく聞いてくれた。ちゃんと伝えることはできたのだろうか。それとも大きなお世話だったのだろうか。

 そう考えていたところで、背後から多くの足音が近づいてくる。もう増援が来てしまった。


 「なんとかして逃げないと!」

 「つっても入り口は待機されて袋のネズミだぞ。抜けきるなんて」

 「ぼくが」「わたしが」「皆でいっせいに飛び出します」「だからその間に、行ってください」

 「え?」


 どうやって外に出ようか歯噛みしていたところに、部屋にいた子達が私に背を向けて入り口へと向かう。

 そして去り際に、子供たちはなんていったのか。言葉の意味を解釈すれば、囮になるといったのだ。


 「そんなこと……!」

 「もとよりぼくらは研究素材」「そして体には裏切ったときのための爆弾が仕掛けられているんです」「だから、ここを抜け出そうという間に死んでしまう運命なら」「抗ってでも、この檻を破壊したい」


 誰一人として迷うことなく走り出した。最初の一人が部屋から出ると同時に、銃声が響いて不恰好なダンスを踊ったように体を動かして倒れた。次々に彼らは部屋を飛び出す。やがて撃たれる子達は雪崩の如く部屋を飛び出した。一瞬の支配からの脱出。銃声は鳴り響き、男の声があがる。


 「いくぞ、ハク」

 「………………」

 「あいつらは外こと見れなかったが、それでも最後に自由を手にしたんだ。自分で、自分の最後を決めたんだよ。だから、これでいいんだ。ハクが悔やむことは何一つ無い」

 「そうかな」

 「そうだ。さぁ、あいつらが目を惹きつけている間に脱出するんだ。それが救いになる」

 「……わかった」


 そして、赤く染まった床を踏みしめて私とクロは部屋をあとにした。



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