北の研究所
「とりあえず、この近くにある研究所を壊滅させる」
「異議なーし」
朝食を食べ終えて、今後の方針を話しているときのことだった。
どうやら桐峰は私を探しに来たこともそうだが、この近くにある研究所を壊滅させるのも予定にあったらしい。これに異議を唱えず賛成したのはなんと【ゲンブ】だった。
「でもその研究所って【ゲンブ】が生まれたところじゃないの?」
「そりゃ生まれたところだけど、あそこの労働環境最悪だし。オレとしては最初からあそこなくなんねえかなって思ってたからちょうどいい」
「そんなわけだから、【ゲンブ】君には案内をお願いしようと思う」
「大丈夫なの?」
「おいおいおい、そりゃオレは敵だったよ。でもね、それは止む終えなくなんだ。説明しただろ、あの黒いおにーさんたちがオレ達を見張ってたからしょうがなかったの。今はひと時の自由だけどあそこが残ってたら一生オレはあそこに縛られるんだ。そんなのごめんだね」
「と、彼も言っているようだし信じよう、柏。もし罠だとしてもその時は彼を殺せばいいから」
「こわっ」
「ちゃんと連れて行ってくれるんだろう? なら大丈夫だよ」
「まぁちゃんと案内はするよ。あぁそれと、なんか【ゲンブ】とか大仰な名前はちょっと嫌なので、名前を考えました。これからオレは金剛玄と名乗る。クロと呼んでくれ。 ちなみにクロの字は玄武から引用した」
「わかったよ、クロ君」
「なんか猫のような名前ね、クロ」
「猫って……。まぁ案内はするけど、戦闘はめんどいしさすがにオレも知ってる顔を平気な顔で殺すのは気が引けるから頑張ってくれ」
こうして、【ゲンブ】ことクロに案内される形で私たちは山を歩き出した。
「そういえば、ハクの因子ってなんなんだ?」
「私?」
「ああ。一応というとアレなんだが、これでもオレは北にある研究所の中では一番強いってされている。その理由はハクは知ってるだろうが、この力と【甲鱗】だ。基本的に【甲鱗】の弱点を知ってるやつがほとんどいないから一番強いってされてるわけだが、そのオレを暴走していたとはいえ圧倒した。そう考えるとハクの因子はなんなのか、って疑問を持ったわけだ」
山道を歩く中、ふとクロに質問された。
答えはなんとなく知っている。
「確か、【ビャッコ】って」
「【ビャッコ】? ってーなんだ?」
「知らない」
「四獣のうちの一体の名前と一緒だね。西方を守護する白い虎なんだ」
「へぇ、ってことはハクの因子とオレの因子って結構珍しい?」
「んー、どうだろう。でもハクの因子が【ビャッコ】だというなら、これも幻想生物を模しているはずなんだ。ベースは虎かな。そういった意味じゃ複数の因子を有している【因子保持者】は珍しいのかもしれない」
「どうして複数の因子を有しているのは珍しいの?」
「簡単な話、下手をすると因子同士が争いをして肉体に負荷が起きるんだろう。だから本来は一つの因子だけの【因子保持者】を作っているはずなんだけど。そこは研究者なんだろうね、より強い【因子保持者】を作りたいという知的好奇心なのか、挑戦したいという研究者としての性なのか。僕にはわからないけれど」
「さて、もうすぐ研究所だ。ちなみにここら辺から防犯装置が動作している上に【対因子部隊】っつうオレらを鎮圧するための部隊がいる。まぁあの黒いやつらだよ。研究所の警護はそいつらがやってるから、それさえどうにかしてしまえば基本的に大丈夫だ」
「ふむ。ちなみに部隊の動きは把握してる?」
「いや。オレみたいなヤツには教えてくれないね」
「そうか。なら、ここは僕が陽動として暴れよう。その間に柏とクロには被検体となっている【因子保持者】の子達を救ってあげて欲しい」
「わかった」
「あー、まぁそれぐらいなら。了解した」
「それじゃあ僕が突入してから少し様子をみてから入ってくれ。クロ、案内できるだろう?」
「その場所ならわかる」
「よし。それじゃあ行ってくる」
「気をつけてね、桐峰」
「柏も、無茶はしないように」
そして桐峰は、研究所の中へと入っていく。
次に響き渡ったのは銃声と爆発。
「よし、オレらもそろそろ行くとしよう」
「うん」
クロに促され、私たちは研究所へと入っていった。




