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Factor  作者: へるぷみ~
玄い少年は怠惰でありたい
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意志は在れども意思は無く


 「あぁあああああ!!!」


 私は目の前で起こる光景を眺めていた。

 いや、正確には眺めることしかできなかった。視界に映るもの、体躯の動き、感触、自身に起きていること全てを感じることができるというのにそれら全ては他人事のような感覚なのだ。とてもリアルな夢を見ているというのが正しいのだろうか。

 力の限りの咆哮、生身の人間の体を自らの手で砕き、抉り、裂いていく。目まぐるしく動いているはずの視点はしかし自分の近くにいる者を捉え続け、駆ける双脚は地面を蹴るたびに遅滞を生むどころかより加速しているというのを感じていた。


 「く、くるな、うわぁああああ」

 「ちくしょう、この化け物めが!」


 意識が浮上し、現状を認識したときには自分の手は血にまみれていた。

 視界の端々には地に倒れ、傷口から流れ出す血液で地面を染める者たち。

 今もまた、目の前で銃を構えこちらへと撃っていた人間の弾丸を潜り抜けるなどという面倒・・なことをせず、銃口が向いていない方向へと移動、見失ったのか虚を衝かれて引き金を絞る指を緩める姿を最後に、頭から地面に叩きつけられゴキッという音がした。

 『化け物』という言葉、それが嫌でもわかってくる。まず、普通の人間はチョッキの上から素手で人体を掻き切るなんてことは不可能だし、頭で反応するのではなく本能による反射で動くその様は人というよりは獣のソレだった。


 周囲にいた黒づくめたちを倒し終えると、標的は自然【ゲンブ】という男だ。視界の先で困惑の表情を浮かべているが、制御もできない自分の体はそんなものは知らないと言わんばかりに肉迫、右手の貫手は甲鱗で防がれたがそんなことは織り込み済みだと左手で掻き抜ける。足は止めず、多少の遅滞も次の一歩で最高速へと戻り【ゲンブ】の反撃は掠めもしなかった。

 驚いたのは【ゲンブ】の堅牢なはずの肉体に傷がついたということ。右の貫手は通らなかったというのに、左手の引っ掻きは通じた。理由はわからないが、絶対に通じないと思っていた甲鱗にも隙があるということなのか。


 「こりゃ、ちとまずいか……」


 足の動きは緩めることなく、意思とは関係なしに私の体は【ゲンブ】から視線を逸らさない。

 移動するとき、基本的に私の体は前屈みとなっていて視線は低い。必要ならば両手も使用して地面を掴み、急激な方向転換と動きの緩急を生み出していた。その分どうやら爆発的な速度を生み出す足は完全に移動のためにしか用いられておらず、蹴りに類する攻撃は一度も行っていない。

 どくんどくんと心臓が早鐘を打っている。強引な動きの反動なのか、肉体の疲労と内側の痛みは意識するほど大きくなっている。だがそんなことは関係ない。目の前にいる者を地にひれ伏すことだけを私の体は遂行しようとしてた。


 「あぁああ!」


 背撃。【ゲンブ】の身に着けている装備を引き裂き肉体にまで達する一撃を繰り出す。


 「ふッ」


 対して【ゲンブ】は視界外からの攻撃を予想したのか、足元を蹴り砕き岩を隆起させた。しかし私の体は隆起した岩など障害物とも感じず足場にして襲い掛かる。これに対するカウンターは上段後ろ回し蹴り。【ゲンブ】の重い一撃はまともに喰らえば死は免れず、掠めたとしても掠めた部分が削がれ吹き飛ばされるだろう。これを大きく跳躍して回避。離れた場所に着地をしたが休むまもなく襲い掛かる。

 正面からのアプローチに【ゲンブ】は砕いた岩を蹴り飛ばす。最初こそやられてしまったが、二度目は通じない。散弾が襲い掛かるよりも速く横に跳び着地の反動を利用して突貫。迎え撃つのは大上段から振り下ろされる拳。無論、大雑把な一撃を貰うはずは無く拳が地面を殴りつけるよりも速く【ゲンブ】の胴体を切り裂く。が、その一撃は甲鱗の固い感触によって防がれたことがわかる。


 「あぁくそ、当たる気配も無ければ掠める気配も無いな」


 スピードが命を云わんばかりに動き続ける以上、常に先手をとるのは私の方だ。【ゲンブ】は基本的にそれを迎撃、反撃、防御、という受身であり先手を取ろうという動きは見せない。下手な先制攻撃は恐らく甲鱗の強みを活かしきれないからだろうか。



 そんな光景を、ああ自分は本当に人間じゃなくて化け物なんだと眺めている自分がいた。



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