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Factor  作者: へるぷみ~
Traveler / Explorer
184/187

【Explorer】基盤を整えるために


 【渡り鳥エクスプローラー】の資格を得るのはそんなに難しいものではなかった。

 といっても、そこには『(仮)』という文言が入る。何でも私たちがたどり着いた街はギルドの支部であり、【渡り鳥エクスプローラー】としての身分は街中だけでしか通じない上に、受けられる依頼は簡単なものしかできないらしい。

 では、どうやって『(仮)』を無くすようにするのかというのはここから北のほうにある街――地図で見れば中央に位置している場所――に行き、そこのギルド本部で正式な手続きをするという感じだった。


 「それじゃあ、次の目的地は北上するってこと?」

 「そうなるわねぇ……」

 「もうすぐに出立すんのか?」

 「さすがにしないわよ……とりあえず宿を取りましょう。ある程度の路銀は持ってるから、一泊するぐらいなら大丈夫な筈よ」

 「さすがに歩き続けたのもあったから、すぐに休みたいわ……」


 ギルドから出て、休むための場所を探す。


 「ちょっと待ってなさい」


 と、時折コハルが言うと建物の中に入っていく。

 彼女が入っていった建物を見上げれば、看板らしき場所にはよくわからない文字が書かれている。


 「読める?」

 「さぁ~?」

 「わからん」

 「存じ上げていませんね」


 周りに聞いてみれば、全員首を横に振った。まぁ、そうだろう。何せここは異世界である。読めない言語があってもおかしくは無いだろう。

 あれ、でもそうなるとどうして私たちはさっきの男の人が喋っていた言葉がわかって、コハルの言葉を理解していたのだろう?


 「待たせたわね、次に行きましょう」


 建物から出てきたコハルが、そのまま歩き出す。


 「何してたの?」

 「読めないと思うんだけど、今のところは宿……休憩所なのよ。でちょっと話を聞いてきたんだけど、あたしたちが一泊するにはちょっと高かったのよ。で、他の宿の話を聞いたから次の場所ってとこね」


 指差したのは、先ほど私たちが読めなかった何かの文字だ。どうやら、アレが宿を表すものらしい。そうわかれば、次のお店の看板の文字が同様であれば、あの文字列は宿ということになるのだろう。

 せっかく別の世界に来たのだ、知らないことを多く学べる機会を逃したくなかった。





 ――――――





 「はぁー、ちょっと硬いけどちゃんとしたベッドに寝転がれるのは最高ねー」

 「それはいいんだけど……」

 「んー、何か問題ある? 夜は自分で用意するけど朝食あり、体を洗う用のお湯に桶はひと部屋に1杯で、それ以上は有料、ひと部屋ベッドが2つ。それでさっきの店よりも半分は安いのよ?」

 「それはいいんだけど……」

 「じゃあ何が問題? 一部屋にベッドが2つだから、まぁあたしたちは5人ね。でもはっきり言って女2人が同じベッドに入ったところでそんなに狭くはならないでしょう。それとも、結構寝相が悪いの?」

 「それも大丈夫だけど……」

 「煮え切らないわねぇ、じゃあ何?」

 「クロと【霊亀】は一緒の部屋で大丈夫なの? 主にクロが」

 「大丈夫でしょ」

 「軽いわねぇ」

 「まぁ他人事だし。いっそ貞操奪ってくれそうなのと相部屋なんだからこの際ヤッちゃえばいいのよ」

 「えぇ……」

 「そんなに気になるなら入れ替わる? というか、今までは野営するとき一緒に寝てたんでしょ。今さら何を気にしてるんだか」

 「あれは外っていうのもあったし、そんなことを考える余裕もなかったのよ。それにクロはなんていうか……家族みたいな感じだし」

 「【霊亀】だって家族みたいなもんなんでしょ?」

 「それはそうなんだけど、何て言うのかしら、アレは――」

 「家族であろうと手を出すタイプ?」

 「かしらね」


 自分で言っていてなんだけど、中々に酷い考えだ。今まではそんなことを考える余裕もないほどだったのや、狭い空間ではなかったというのもあったけれど、こうして何かに追われているという強迫観念も薄れれば、狭い部屋に男女がというのは良くないことだということぐらいは本なんかでも読んでいることもあってわかっている。


 「ま、そんなのどうしようもないわよ。こっちが気にしたところで。まぁ夜遅くに隣から物音がしたら耳でも塞ぐといいのよ」

 「生々しい……」

 「そもそもこの会話が成立する分、それを理解できてるアンタは十分耳年増よ」

 「ぐっ」


 痛いところを突かれて言葉に詰まる。

 発端は私とはいえ、ちょっとなんともいえない空気になってしまった。


 「お湯、借りてきたよ~」

 「丁度いいタイミング!」

 「ほぇ~、どうかしたの?」

 「な、なんでもないわよ。それよりさっさと体を拭いちゃいましょう。歩いている間は着替えも出来なかったから、もう汗臭いのよ」


 と、誤魔化すように背嚢の中からタオルと替えの服を取り出していく。


 「そうね、あたしもこのまま眠るのは嫌だし、冷める前に洗っちゃいましょうかね」

 「ボクもそうしよ~」


 そうして、お湯で濡らしたタオルで全身を拭い、ちょっとアレだけどリョーの力を借りて飛び散らないように髪を洗えば、さっぱりすることができた。


 夕食は各自の少なくなり始めた食料を少しお腹に入れて、すぐに眠ったのだった。





 ――――――





 「んー、やっぱりちゃんとした場所で眠って、朝もしっかり食べれると違うわねー」


 清々しい気分で久しぶりに目覚め、朝食を終えて身支度を終えて建物を出る。


 「オレは疲れたけどな……」

 「何があったのよ……」

 「【霊亀】のヤツが人のベッドに入り込もうとしたんで追い出してたんだよ」

 「酷いです。お兄さまってば、何度も何度もわたくしのことを冷たいベッドに投げるんですもの」

 「そりゃオマエが自分のベッドに入らねぇからなぁ!?」


 どうやら、私やコハルが話していたことが実際に起きたようだった。といってもクロは手を出してはいないようで、それは【霊亀】の不貞腐れた表情からもわかった。


 「ほら、そろそろ行くわよ。忘れ物はないの?」


 そう話していれば、最後に建物から出てきたコハルがそう告げた。

 部屋を出る前にはちゃんと確認はしたので、それに対して頷くことで返答した。

 リョーもクロも【霊亀】も特に問題はないようで、それぞれ返した。


 「それならいいわ。次に行く場所はドラクンクルト。この世界では中心ともいえる都市よ」



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