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Factor  作者: へるぷみ~
Traveler / Explorer
182/187

【Explorer】朝昼歩いて夜は寝て


 歩いた。

 とにかく歩いた。

 もしかしたら生きていたうちで一番歩いたかもしれない。





 ――――――






 私たちがいた施設から外に出てみれば、そこは廃墟が立ち並ぶ街並みに緑の一欠けらもない地面。一瞬だけ実は異世界になんて跳んでないのではないのか? という疑問が湧いたけれど、それはすぐに解消された。


 ――ギギ、が、が、が、が


 コハルを除いて呆けている私たちの前に現れたのは、金属質のフォルムに四つの脚を携えた動く物体。光を照らす光沢の隙間から覗く赤や青の線が配線だと気づき、それが機械であるということを悟らせた。

 機械が動いているというのにも驚いたけれど、次に目を惹かれたのはその背面に背負っているものだ。銃、それも機関銃と呼ばれる類の、一瞬にして人間を穴だらけにできる凶悪な兵器があったのだ。


 機械の顔に当たらしき部分が、こちらへと向く。一本線に走った暗黒の中でぼんやりと点る赤い光が右から左に動いた。

 一瞬だけ身構え、すぐにでも機関銃の射線から逃れられる場所を探そうとして周囲に目を走らせれば、廃墟の影から、屋上から、窓から、大小さまざまな機械群が私たちの周りを囲い、見ていた。


 逃げ場は無い。


 「そんなに警戒しなくても大丈夫よ、もうアンタ達のデータはこいつらに登録されてるから、襲われるもんだは無いわ」

 「え?」

 「まぁこれは最終確認みたいなものだから、もうしばらくは待ちなさい。ほら」


 これまでで実は一番の緊急事態ではないかと思い、どう動けばいいのか思考を巡らせ用とした瞬間に、コハルはそう言い放つ。その言葉に呆気にとられ、もう一度視線を目の前にいる機械へと向ければ、


 【画像認証終了……登録者デス 検査モードヲ解除 警備モードニ移行シマス】


 人工的な声音が響いた後に、がしゃんがしゃんとそこら中で音を立てて機械は立ち去っていった。

 そして目の前にいる機械も、先に言う検査モードが終わったからなのか、何事も無かったかのようニ立ち去っていった。


 「ね、大丈夫だったでしょ?」


 と、口端をあげたコハルが先を行く。その表情にちょっとだけこめかみの辺りが痙攣した。


 「とりあえず大丈夫なんだろ? だったらさっさと行こうぜ」

 「あ、待ってくださいお兄さまー」


 続くようにクロ、【霊亀】が歩き出した。


 「ほ~ら、ボクたちも行こう、ハクちゃん?」

 「そう、ね。行きましょうか」





 ――――――





 そして、地平の先まで砂で覆われた場所を歩いた。

 視界の先が黄土色から茶色と緑色に変わったときは、ようやくこの世界があの灰色の世界とは別のものであるという実感が湧いた。まぁ、実感といえば見上げた空は雲に覆われていないのと、影ははっきりと見えるぐらいに明るいというのがあるんだけど、どうもそういうのは現実感がなくて、実感というよりは夢を見ているんじゃないかという気持ちの方が大きかったんだけど。


 「つか、れた……」

 「道中なんて歩いているだけだったんだから、大したことなかったでしょ?」

 「いや、逆に二週間ほとんど歩き通しで疲れた様子見せてないコハルの方がおかしいと思うんだけど……」


 実際、休んでいた時間は暗くなり、歩くのが困難になってからだった。

 それぞれがホタル石の明かりを頼りに寝るための準備をして、そのあとに食事に手をつける。といっても食事は火が使えないためにもっさりとした保存食のオンパレードで、水が限られている以上は何も考えずに飲むことは出来ないために飲むタイミングを考えるのは非常に大変だった。


 「つーか、朝食も昼食も休まず歩きながら食べるっつーのが一番キツかったぜ……」


 そうだ、それも大変だった。

 歩幅は緩めず、少しずつ軽くなっていく背嚢の中から食事を出して口に放り込み、咀嚼しながら食事の残骸をしまい、飲み込むのと背嚢から水を取り出し口を湿らせる。

 初めてのことで最初こそ大変だったけれど、まぁ慣れるもので。今では特に意識することなく出来るぐらいにはなっていた。


 「その休まずの行軍のおかげで、食料も水も多少は残ってる状態で街に着く事ができたんでしょ?」

 「そりゃ私たちが【因子保持者ファクター】だから出来ることでしょうが……」

 「そうとも言うわね」


 と、コハルは後ろ手で背嚢を漁り、水の入った容器を取り出し軽く口をつけて喉を潤し、そのまま容器をしまった。非常に手馴れた動きは、反射的にやっているとしか感じない。

 そして、この中で最も小柄な見た目だというのにその最小限の動作によるものなのか、誰よりも余裕があった。


 「さぁさぁ、行くわよ。一応多少は身元が不明でもいいんだけど、こういうのはやっぱり自分の身分を確立させるのが基本でしょう?」

 「そんな場所があるの?」

 「ええ」


 そういって、彼女は頷き迷い無く歩き出した。


 「ギルド」


 その単語を告げて。




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