【Explorer】オアイフ
「なるほど、ね。わかったわ、ちょっと意外だけどアンタがそう決めたんなら別に拒否する理由は無いわ」
「お願いします」
「別に畏まる必要ないわよ。あたしの提案は『今から異世界行くけど、一緒に来る?』みたいなもんだし。ついでみたいなものよね」
その割には、結構深刻そうな表情でこちらへと言ってきた気がするんだけど。
「言っとくけど、さっき真面目に聞いたのはあたしにとってはついででも、アンタ達にとっては人生の分岐路だからよ。そうね、今回クレハは『異世界へと渡る』という選択肢をした。けれど、別の選択肢として『この世界で桐峰を探す旅をする』と選択したアンタもいたかもしれない。どちらの未来もどうなるかなんて知らないけど、後悔しないというなら私がとやかく言う義理はないわ」
「………………」
「なによ?」
「意外と、私たちのことちゃんと考えてくれてたんだ」
「はぁ……あのねぇ、あー、まぁいいわ。こっちの思惑もそっちの思惑もすれ違っているからといっても別段支障はないしね」
額に手をついてため息を吐くクレハ。何かある度にため息を吐いているのをみると、癖になっているのだろうか。正直、私よりも今のクレハは身長が低いし小柄だ。なのに言動は元のままだから、どうにも見た目とのギャップが生じてしまい変だなぁなんて思ってしまった。
「それで、私たちはどうしたらいいの?」
「んー、まぁとりあえず着いてきて、こっちの指示に従って行動してくれればいいわ。準備もほとんど終わらせてあるしね」
――――――
「それにしても、クロに妹がいるなんてね」
「オレの知らねーところで生まれたヤツを妹と認めていいのかわかんねぇけどな……」
「もう、そんなことを言わないでくださいお兄さま。遺伝子的にお兄さまと私は血縁関係であるということは確かなのです。お兄さまより後から生まれてしまったのでお母さまやお姉さまにはなれないのですから、そうなれば妹というのが当然の帰結でございましょう?」
「オレが言いてぇのはそういうことじゃねぇんだけどなぁ……!?」
「まぁまぁクロ君、ボクらなんて元々家族って言える人がいないんだから、実質血が繋がっているっていうのは拠り所なんだよ。それを否定するのは可哀想だよ」
「お姉さま……!」
「【霊亀】ちゃん!」
「「だきッ!!」」
「オレを間に挟んで万力すんじゃねぇええええ!!!」
クロを間に、リョーと【霊亀】の少女が抱きつけばさすがに精神的に辛かったんだろう。少々強引に二人を引き剥がすクロに対して、張本人である二人は笑いながら力尽くで剥がされるよりも早く飛び退いていた。
「あら、嫌われているよりは好かれているほうがいいんじゃないの、おにーちゃん?」
「おぅ、喧嘩売ってんのかこのヤロウ?」
「あらあら、そんな怒らないでよおにーちゃん?」
「うっし、やっぱ喧嘩売ってんな。買ってやるから一発殴らせやがれ」
精神的な消耗で息を切らせるクロに向けて、先を行っていたクレハが流し目でからかう。
さすがに重傷を負わされた恨みがまだ残っているのか、金髪幼女ともいうべき姿になったクレハを見下ろすクロの図は、子供の悪戯にマジ切れした大人が説教をかます数秒前のような雰囲気だった。
が、もちろん子供体型であるクレハは私たちよりもこの中では年長(のはず)であり、クロの態度に対するお返しはさらに煽るというものだった。
「捕まえられるものなら捕まえてみなさい? これでも森の狩人とか賢人とか云われてる血を入れてるあたしに勝てるならね!」
「上等だッ!!」
それなりに広いとはいえ、廊下で追いかけっこ勃発である。
飛び掛ったクロに対して、クレハはその小さな体型を活かして背を屈ませて体の面積を小さくしたり、身軽な動きで壁や天井、果てはクロの膝に肩に背中、頭を足場にして逃げ回る。
「待ってください、お兄さまー♪」
そしてその二人を追いかけるようにして【霊亀】も廊下を駆けて行ってしまう。
「私たちはゆっくり行きましょうか?」
「そだね~。でも、クレハさんが行く場所ってどこだっけ?」
「あ」
そうだった。クレハについて来いと言われて歩いていたというのに、その先導する本人は真っ先に行ってしまっている。
ということは……?
「リョー、追いかけましょ! 見失ったらヤバイ!!」
「お~!」
幸いにも、後から追いかけていた【霊亀】の姿だけは見失わなかったからそこに追いつけたおかげでクレハたちを見失うことは無かった。