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Factor  作者: へるぷみ~
Traveler / Explorer
179/187

【Traveler】少女は歩き続ける


 「………………」

 「………………」


 そこは何も無い場所だった。


 何も無い場所を、ただひたすらに歩いていく。


 風が荒べば視界を覆いつくすほどの砂塵が舞い、下手に口を開こうものなら一瞬で口内は砂まみれになるために口を開くことは無かった。


 砂塵の奥で、大きな影が映りこんだ。

 隣を歩くリョーに視線を向ければ、彼女もその影に気がついたようで、互いに頷きその影を目指す。


 進んでも進んでも、影が大きくなる様子は無い。


 それでも、そこに何かがあるかもしれないという可能性がある以上は、そこへ向けて歩くしかないからだ。





 なにせ、かれこれ一週間以上は休み無く歩いている。そろそろ、この砂塵から抜け出したかった。





 ――――――





 「はぁ、ようやく息が吐ける……」

 「さすがにこんなに歩き続けたのは初めてだったね~」

 「ホントよ、いきなり風が出てきたかと思えばずーーーーっと吹くし、加えて砂は飛び荒んで野宿もまともに出来ないし、散々だったわ!」


 本当に辛かった。

 野営をするためのテントが建てられない以上は歩くしかないわけで。

 そして、一週間続けて風が荒ぶっていればまともテントは建てられないわけで。


 こうしてようやく風から身を隠すことの出来る廃墟へとたどり着くことが出来たのは幸運だった。


 「リョー、水……ちょうだい」

 「ほいほ~い」


 砂まみれになっていた外套を脱いで、外套の隙間から髪や服に入っていた砂を叩き落としていく。

 ある程度砂埃を落としたら、その間にリョーが用意してくれた水を飲む。


 「はぁー、生き返る」

 「まともに飲まず食わずで歩き続けてよく保ったって思うよ~」

 「そうね。さすがに今回ばかしは行き倒れになると思ってたわ」


 ある程度落ち着きを取り戻すと、空腹が襲い掛かってくる。当然な話、一週間まともに食べていないのだ。水は最悪な状況になるまえにリョーが水の膜を張ることによって少しだけ風から身を守り、その間に飲めてはいたおかげで倒れることはなかったけれど、食事をするだけの余裕はなかったから自然と食欲は意識の外へと追いやっていた。

 それが今、落ち着けるようになったことで襲い掛かってきたということだろう。


 「先に食事にしましょうか。体は……その後に軽く拭いてからにしましょ?」

 「そうだね~。ボクもお腹空いちゃったよ」


 背嚢から取り出すのは主に乾物と火を起こすための道具。

 リョーは食器は取り出しては湿らせた布でそれらを拭いていく。


 水を容器に入れたら火を起こして熱湯にする。そこへ小さく千切った干し肉を投入し、さらにそこへ密封したパックから緑色植物を投入。簡易的なスープにする。

 あとはシャルロッテから貰っていた栄養補填用の錠剤を皿に転がして食事の準備は完了だ。


 「久しぶりの食事だけど、一気に食べるのはよくないからゆっくり食べてよ?」

 「は~い」


 と、スープを渡せば人の話を聞いていなかったと思うかのごとくスープをすするリョーである。まぁ、【因子保持者ファクター】である私たちがそうそう体調を崩すこともないのだから心配こそ無用だろうけど。


 「それにしてもリョー、結構髪伸びたわね?」

 「そいえばそうだね~」


 スープを舐めるようにすすりながら、彼女の髪が床に広がっているのが目に付いてふとそう思った。


 「伸ばし始めてからどれぐらいだっけ~?」

 「えーっと、最初に東の森を出てからでしょ。で今回が五度目だから……、十年? うわ、そう考えてみれば凄いわね」

 「わぁ~お、もうそんなに経つんだ?」


 まったくそのとおりだ。

 桐峰を探し始めてから既に十年。

 【中央セントラル】を脱出し、ケヴィンのところへ行ってみれば行方不明。

 よって最後に頼れるであろう東にあるシェルターへと向かい、シャルロッテに会うことは出来た。そうして旅の準備をして、北の山に行って南に行って、西に行って。

 全ては徒歩だから大変だったけれど、まぁ思い返してみれば【中央セントラル】に向かうときも似たように歩いていた。


 とはいえ、今回は桐峰を見つけ出すという目的はあるものの彼がどこにいるのかなんてわからない。それだけにどこにいるのかを毎回考えながら方向を定め、準備をし、そこへと向かうという無謀なことをしていればそれだけの時間が経つというのは当然の結果であろう。


 「そういえば前回あったときのシャルなんて皺が増えてたもんね~」

 「それ、気にしてそうだから今度会ったときは言わないでよ?」

 「大丈夫だって~」


 手で髪を巻き取り、くるくると弄れば髪の間に紛れていた砂が床へと落ちていく。

 まだスープを飲んでいる私に対してそうそうに食事を終えたリョーは、ケヴィン印の水の生成機から水を取り出して布を濡らせば、それで髪を拭っていく。


 「でも、髪が長くなると洗ったりするの面倒だね~」

 「そりゃそこまで長くなればそうでしょ」

 「ハクちゃんは戻るたびに髪短くしちゃうよね~」


 髪を拭いながら視線を向けられたので空いている手で髪を梳く。今は肩ぐらいの長さになった髪だ。


 「ま、さすがに長い時間歩き続けるんだもの、あんまし長いと手入れが面倒でしょ? 今のリョーみたいに」

 「あはは~、それは確かに」


 といいながらも、彼女は髪の手入れをやめない。

 それこそ、私が髪を切ったときから私に対抗するようにリョーは髪を伸ばし始めた。

 理由を聞いても――『う~ん、それはハクちゃんにも秘密かな?』っと言われてしまいそれ以降は聞いていない。

 まぁ、リョーにも何かしらの考えがあるのだ。それを追求するのも野暮というものだろう。


 食事も終わり、片づけをすれば睡魔が襲ってくる。

 食欲と睡眠欲というのは中々厄介だ。意識しなくても襲ってくるし、意識すればするほど強くなる。


 「ふあぁ、はふ。一先ず寝ましょう? 起きたら風も止んでるかもしれないしね」

 「そうだね~。ボクも結構眠たいし、そうしよっか」


 と決まれば後は行動は簡単だ。それぞれ寝るための敷物を広げ、背嚢を枕にして寝転がる。


 「おやすみ、リョー」

 「おやすみ~、ハクちゃん」


 外は風が荒ぶ中、廃墟で眠る。


 それが今の日常の断片。


 荒れた世界で旅をして。


 未だ見付からぬあの人を追い求める。


 いつかきっと、見付かると信じて。


 私はこの世界を歩き続ける。



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