【Traveler】荒廃した地を行くもの達
「ひとまず、ケヴィンの所にでも行きましょうか」
「は~い」
クレハとクロが部屋を出てから少ししてからのことだった。
私が【中央】に来る際に着ていた服はボロボロになっており、クレハは廃棄してしまったらしく、その代わりとして用意された服を着た。
上は白い毛皮のコートと、真っ黒なシャツ?のようなもの。下着はちょっと布地が薄いじゃないかって思ったけれど、どうやら一緒に用意されていたスパッツを履くのが前提の薄さのようだ。そして膝丈ほどのスカート。あとは黒いソックスと動きやすさを重視した靴だった。
「よし」
着替えを終えて、少し動いて様子見れば特に問題は無かった。いや、一つだけ問題はあった。【白虎】としての力を引き出そうとしてみたけれど、どうも上手くいかなかったことだ。私の変化は自分ではあまりわからないのでリョーに見てもらっていたけれど、髪は真っ白なままで目の色も変わらなかったらしい。
「とはいえ、いきなり戦うってわけじゃないはずだし……大丈夫だとは思うけれど」
「いざとなったらボクがハクちゃんを守ればいいしね~」
「頼りきりっていうのは普通に嫌なんだけど、出来ないことはしょうがないし、よろしくお願いするわ」
「まっかせて~」
最後に、外に出るための外套を羽織る。
そろそろ、いい時間帯だろうか?
――ガコン
と、思っていた瞬間のことだった。
あれだけ部屋の中で色んな画面を映し出していた機械群が一斉に暗転する。
さらにホタルイシによって光っている場所以外の明かりは落ち、部屋の明るさが一段下がった。
「これが合図ね。よし、行きましょうリョー」
「りょうか~い」
部屋を出る直前に、クレハからメモを受け取っていた。
【中央】は今いる5階層こそ【対因子部隊】の介入がほとんどないが、その下からは普段どおりに警備がされているらしい。なので普通に降りようとすれば警備と鉢合わせになってしまう。そこでクレハが、施設が完全停電した際には非常用避難経路が使えるようになるらしく、その完全停電を異世界へと飛ぶ際に発生させるとのことだった。
明るさが一段下がったとはいえ、【因子保持者】としての視力であれば大して変化は無い。どこかに生まれたであろう避難経路を探す。
「あったよ~」
二手に分かれて探せば、リョーが見つけてくれたようで、大きく手を振る場所へ合流する。
そこにあったのは大きな穴だ。そこの見えない穴。
廃棄場所なんて言葉が過ぎってくるけれど、とりあえず【中央】の外に行くにはここを行くしかない。この部屋の扉は電気操作なので、停電してしまった現在は物理的に開けるしか手が無いからだ。
「これ、別々に行くのと一緒に行くのはどっちがいいのかしら?」
「ボクとしては一緒の方がいいかな~」
「わかったわ、そうしましょう。となるとどっちが前か、だけど……」
「そりゃ、ボクが前でしょ。もし地面にぶつかり掛けたり水面に叩きつけられかけてもどうにかなるはずだしね~」
「……よね」
考えるまでも無いことだった。
体勢としては座った状態だ。リョーが膝をまっすぐ伸ばした状態で、私がそこに連なるように座る形。
「ハクちゃん、ちゃんと捕まっててね~?」
「そ、そうね」
「んふふ~」
「なんでそこで笑うのよ?」
「え~、だってハクちゃんと密着できる機会って考えてみたらあんまし無かったから」
「そうかしら?」
「そうだよ~」
「んー、まぁともかくそろそろ行きましょう?」
「ほ~い」
そして、暗い穴へと私達は身を乗り出した。
――――――
結論から言おう。
非常用避難経路の出口は排水溝だった。
汚水の中にドボンはリョーのおかげで起きなかったけれど、それでも濁った水が迫るあの恐怖は中々だった。二度とやりたくない。
次に、ケヴィンの家までは排水溝を出てすぐのところに車が置かれていたけれど、私もリョーも運転しようものなら何が起きるのかわからなかったので乗るのは放棄。歩いて行くこととなった。
何日かかけて野生動物に襲われてを繰り返し、ケヴィンの隠れ家へとたどり着いたのだが、普段入っていたあの大岩を通ろうとすれば通ることは出来ず、試しに砕いても見たけれどそれはただの大岩だった。
つまり、ケヴィンに会うことは出来なかった。
「どうしましょうか……」
「この近くにシェルターってあったっけ~?」
「確か無かったわね。多分、一番近いのは東のあそこのシェルターだと思う」
当てにしていた人に会えず、しょうがなく場所を変更。
リョーと出会った緑の生い茂るシェルターへと向かうこととなった。
――――――
「さすが歩き通しだと、疲れたわね」
「ちゃんとした場所で寝たいね~」
ようやく見えた緑に、なんだか戻ってきたという気分になった。
「外套のおかげで土埃はある程度凌げるけど、さすがに雨は辛いわ……」
何も無い荒野で一番困ったのは雨だ。
一応、リョーがある程度までなら水を展開して雨水を防ぐことは出来るのだけれど、それは能力の無駄遣いというかもしもの時に能力が使えないほど疲弊するのはよくないということで使ってこなかった。おかげで運よく雨風を凌げそうな廃墟が無い限りは濡れながら歩き続け、ぬかるんだ地面を歩くたびに跳ねる泥水が鬱陶しくあった。
「ともあれ、ようやく到着ね……」
考えてみれば【中央】を脱出してからほぼ休まずに歩いていた。
「シャルは元気かな~?」
「なんだかんだで、そんなに時間は経ってないし、大丈夫だと思うけど」
と、久しぶりに他愛の無い話をしながら私達は森の中へと入っていった。