【Traveler】そして分岐する
「そう、分かった」
私の決めたことを話して、クレハが頷く。
「あたしは出来なかったけれど、アンタなら出来るかもしれない」
「うん」
「頑張んなさい」
「うん」
「なら、オレもお別れだな」
「クロ……」
「色々あったし、死に掛けることも何度もあったけどよ、なんだかんだ楽しかったぜ」
「そう」
「オレとしちゃぁ別れの挨拶なんて『じゃあな』の一言でもいいんだけどよ。まぁこれが最後なんだ――」
がりがりと頭を掻きながら視線を斜め上にして、クロが手を差し出した。
その手は白く綺麗で、男性のものにしてはやけに細いという印象を受けるもの。
とはいえそれを気にしている暇も、問う暇も無い。
差し出された手に、私も手を差し出して握手する。
「じゃぁな」
「じゃあね」
別れの言葉は、クロの望む一言で。
にっ、と笑った彼の表情につられて、自然と頬も緩む。
繋いでいた手は一瞬で。
「まぁリョーも、一応な」
「え~一応なんだ?」
「うっせ」
「じゃぁなッ」
「じゃぁね~」
――パァン!
互いの手を叩き、場に大きな音が鳴る。
私にはよくわからないけれど、握手とはまた違う別れ方。けれどそれは、なんだか二人らしくて。見ていた私は小さく笑った。
クロが私たちに背を向けて歩き出す。
彼もついていくことを把握していたクレハ部屋の扉の前で待っていた。
「――?」
「――!」
扉の前で少しだけ話していた言葉は聞こえなかったけれど、二人の様子が険悪になっているというわけでもない。
扉が開き、二人が出て行く。
――お に い さ ま ーーーーーー!!!
扉が閉じて二人の姿が消える瞬間のことだった。
私から見て死角となっていた場所から飛び出した一人の女性が、クロに体当たりと見紛うような速度で抱きついていた。
その光景を最後に扉は閉まった。
「なに、あれ……?」
「あはは~。説明すると長くなっちゃうし、簡単に言うとクロ君の妹、かな?」
「え!?」
「ま、まぁその辺は追々話すよ~。だって、話すだけの時間は一杯あるからね」
「そ、そうね……」
最後の最後で現れた衝撃が抜け切ってなくて反応が鈍くなってしまった。
けれど確かに、その通り。
これから先は、時間がある。
あの人を……桐峰を見つけるための時間が。
「それじゃあ行きましょうか、リョー」
「うん!」
この荒廃した世界のどこかにいるのなら彼がいるのなら、見つけ出してみせよう。
何年使っても。
絶対に。




