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Factor  作者: へるぷみ~
白黒少女が求めた先は
175/187

狭間で揺れるココロ

9/18にて文章の追加を行いました。


 桐峰を見捨てる。


 「そんなこと――!」

 「絶対に、今後一生アンタが【龍】を見つけることはできない。それでも?」

 「どうして、そう言えるの?」

 「あたしにも一応それなりに使える駒っていうのはあるのよ。けれどね、それを使っても見つけることは出来なかった。つまりお手上げってこと」


 おどけた様子で肩を竦めるクレハに、私はなんと返答すればいいのかすぐには思いつかなかった。

 彼女が言っていることが真実であるという証拠は無いけれど、意味のないことを言うような人物でもないと私は思っている。そしてそう思っている相手が、やれる事をやり尽くしてそれでもどうにもならなかったと述べたのだ。私が一生かけても桐峰を見つけ出すことは出来ないという彼女の言葉は真実なのだろう。


 「わかった、ちょっとあたし一人で話しすぎたわね。少しだけ落ち着く時間をあげる。それと……そうね、お互いのスタンス――この場合は譲れない部分を明確にしましょう?」

 「譲れない、もの」

 「そう。例えばというか、とりあえずあたしが絶対に譲らないものを先に提示しておくわ。それは、『この世界を見捨て、異世界へと渡る』ことよ。それはここでの会話が終わると同時に行動に移すことだから、意見を変えることはできないし、アンタたちの手助けをするつもりはない。正真正銘、ここで分かれればあたしたちは一生会うことは無いでしょうね」

 「私は……」

 「別に、一人で考えて答えを出せなんて言ってないわよ」

 「え?」

 「【白虎】……いえ、柏。アンタの両脇にいる二人は、なんのためにここにいるの?」

 「そ~だよハクちゃん」

 「リョー」

 「まぁオレとしてはもう自分の命を脅かすもんは無くなって特にオメェに合わせる義理はねぇけどよ、まぁそれなり長いんだ、話ぐらいは聞くさ」

 「クロ」


 それじゃ、あたしは少しだけ席を外すけどそれまでに決めておいてくれると助かるわ、とクレハ言い残して部屋を出て行った。


 「ハクちゃんはさ、キリミネさんのこと探したいってまだ思ってる?」

 「……うん」

 「それが、一生懸けても見付からないかもしれなくても?」

 「うん」

 「だったらさ、ボクはハクちゃんに付いていくよ。それに、この世界にはシャルだっているしね~」

 「けど、桐峰を探す以上はずっと色んなところに行かないといけないし、それに、もしかしたらどこかで死んじゃうかもしれない」

 「それでもいいんだよ、ボクは。最後まで、ハクちゃんとずっと一緒にいるって決めたから」


 そういったリョーの表情はいつものような笑顔だったけれど、その眼差しはどこまでも真っ直ぐに私を見つめていた。そしてそれが、彼女が絶対に今言った言葉を違えるつもりがないということもまた、確信させた。


 「ねぇリョー」

 「なに、ハクちゃん?」

 「初めて出会ったときもそうだったけれど、どうしてリョーはそんなに私の傍にいてくれるの?」

 「ん~、なんでだろ。言葉にはしづらいけれど、なんだかボクはハクちゃんとずっと一緒にいなきゃいけないって思うんだ。あ、別に嫌々ってわけじゃないんだよ? ボクはハクちゃんが好きなんだ。理由はわからないけれど、ボクの内側の何かは、ハクちゃんに衝き動かされるんだよ。離れたくない、一緒にいたいって。だからさ、ハクちゃんは気にしなくても大丈夫。ハクちゃんの傍にいることがボクの生きがいで、生きる意味なんだから」

 「……そ、っか」

 「うん、そうだよ。だからさ、ハクちゃんは、ハクちゃんが思ったようにして?」


 私の両頬に手を添えていたリョーの身が離れる。

 もう、伝えるべきことは伝えたとそう言わんばかりに。

 だから今度は、逆を見る。


 「クロ」

 「なんだ?」

 「クロは、どうしたい?」

 「オレの意見でいいんだな?」

 「うん」

 「異世界に行くべきだろうな」

 「そう」

 「ああ」

 「その、」

 「理由は簡単だ。さっきも言ったが、オレは元々自分の肉体にあった毒だとか爆弾を取り除きたくて【中央セントラル】までやってきた。経緯は考慮しねぇが、最終的にオレの体内にあったそういうのはなくなった。つまり、もうオマエたちと一緒にいるという意味はない。だったらよ、世界がもう死んでるっつうのにそんな世界に残る理由はないだろ」

 「……うん」

 「逆に聞きてぇんだがよ」

 「ん」

 「キリミネの奴を見つけて、オマエはどうしたんだ?」

 「それは、また、昔みたいに……」

 「キリミネを説得するときに言っていた平穏な日常ってやつを送りたい?」

 「うん」

 「もしも、と仮定しよう。もし、キリミネを見つけたとき、アイツがもう虫の息だったら?」

 「それ、は……」

 「オマエの目的は、キリミネを見つけ出すことなのか? それなら見つけた時点で達成できるだろうな。見つけた後、キリミネがいなくなった世界でどうするのかは知らないけどよ」

 「………………」

 「なぁハク、オマエがいの一番に選択しなけりゃいけないのは、二つのことなんだ。キリミネを見捨てるのかどうか、そして平穏な日常を送るのかどうか。きっと、二つを両立するのは不可能に近いんだろう。それでもオマエは、キリミネを探したいのか?」


 彼の言葉は、リョーのような優しさはなかった。それだけに、宙ぶらりんになっていた私の意思の姿をはっきりと映し出してくれて、たくさんあった選択はほんのわずかなものへと変わっていった。


 「ハクはさ……」

 「クロ?」

 「オマエが望む平穏な生活ってヤツは、桐峰がいなけりゃ成り立たないものなのか?」

 「え?」

 「そりゃ、オレやリョーの付き合いはキリミネに比べりゃ短いけどよ、オレたちがいるその生活は、オマエにとっては何かが欠けた……満ち足りないものなのか?」

 「っ」

 「それならさ、もうどうしようもねぇんだ。だってキリミネを探すっていうのは簡単なことじゃねぇ。そんなことをしてれば、平穏な日常ってもんは一生やってこないんだよ。オレはもう、憂うものがなくなった以上、ゆっくりと過ごしたい。キリミネを探すのを手伝うことは出来ない。だからオレは、クレハと一緒に異世界に行く」


 クロの意志もまた、強固なものだった。

 平穏な日常を望んでいる。それはクロもまた同様だった。


 異世界に行けば、絶対とはいえずとも平穏な日常が送れる。それはとても素晴らしいことだ。

 けれどきっと、私はこのまま何の努力もせずに異世界に行けば、必ず後悔する。日常というものを噛み締めれば噛み締めるほどに、桐峰を見捨ててしまったという深く突き刺さり抜けることの無くなった針が私は苛ませるだろう。

 実際は違うかもしれない。時間というものが、彼の存在を消してくれるかもしれない。消せなくても、薄くしてくれるかもしれない。けれどやはり、それはただの願望なのだ。そうなって欲しいという、私のわがまま。


 私は、どうしたらいいんだろうか。





――――――





 「さてと、ちゃんと話し合うことは出来た?」


 私たちの話が終わって少ししてから、クレハが戻ってきた。


 「うん……」


 もう既に、選ばないという選択肢はない。

 逃げるという選択肢も許されていない。


 「決めた」


 頷いて。


 「私は――」


 

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