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Factor  作者: へるぷみ~
白黒少女が求めた先は
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被験者収容施設 ―カチクゴヤ―


 「「「は?」」」


 「まぁ、こんなこと言われても何言ってんだって話よね」


 言った本人であるクレハもそのことを自覚しているのか、ため息混じりに後ろ髪を掻く。


 ――この物語は既に、終わっている


 「そうね……どこから話すべきかしら」


彼女が考える素振りをしていたのはほんのわずか。


 「今、人類が外の世界で生きていくことが出来ないっていうのは知ってるわよね?」


 三人へと向けられた問いに、迷うことなく彼らはを頷いた。


 「これがまず一つ。この世界は既に死んでいて、人類はシェルターの中でしか生きていけない。もし外に出るとしても、防護服を身に着けていなければ不可能とされているわね。けれど、実態としてそれは嘘」

 「嘘?」

 「ええ。別に外に出るのには生身でもいいのよ。防護服を着る必要は無くて、本当ならシェルターにもこもらなくてもいい」

 「だったらどうして、シェルターの中にいる人たちは外に出ようとしないの?」

 「んー、なら逆に聞くけれど、今のまま外に出たら死ぬかもしれないけれど、防護服を着れば外に出ても死ぬことは無いって聞かされたら、どうする?」

 「防護服を……着る、かな」

 「普通はそうよね。そしてシェルターの中にいれば一生安全で、食事にも困らないなら?」

 「シェルターからは出ようとしない……」

 「そうのとおり。知っていればシェルターの外へと出る人はいるかもしれない。けれど、知らなければそうじゃない。外は危険であるという情報だけを残し、シェルターの中は安全であると教え込まれれば誰だって外の世界に目を向けなんてしない。そういう状況を、【中央セントラル】は作り出した」

 「どうして?」

 「簡単な話よ。各シェルターっていうのは互いに連絡を取ることができないの。連絡をするには命がけでシェルター間を行き来する商人を当てにするのがやっとなのよ。それはつまり、全てのシェルターは孤立している状況を生み出してるの。そして、シェルターが孤立していれば例えどんなに近くのシェルターの中の人間たちがいなくなっていても気づくことは出来ない」

 「それって、つまり」

 「想像通りよ。人体実験のための被験者っていうのはいつまでも必要でね、ここにいる奴らの精子とか卵子を使って人間を作ることは出来るけれど、それだとどうしても実験結果が正しいのかはわからない。だから、時折ある程度の人がいるシェルターから調達するの」


 それは云わば家畜。

 クレハの言葉にハクはそう感じ取った。

 ハクはシェルターでこそ住んでいなかったが、桐峰がいない時期はシェルターへと通っていたことがある。安定した食料はシェルターの内部で育てられた家畜や農作物があるからだ。それを知っているからこそ、家畜という単語は脳裏に浮かんだ瞬間、彼女は表情を歪めた。


 「まぁシェルターの成り立ちはそんなものよ。【中央セントラル】が人体実験をするために作った施設。シェルターの中にいる人たちはそんなものを知らずに幸せに生きている。実際、昔比べて最近は調達する機会はなかったはずだから、無事に老衰している人もいるんじゃないかしら」


 「あぁ、少しだけ話が脱線したわね。シェルターの話はそもそも前振りだったのに。ごほん、この外の世界は荒廃している。それは文字通り世界が死んでいるから。地に降る雨はあっても地はその雨を力にするだけの命がなく、昔は見えていた太陽は雲に覆われてもう長い間日の光が射し込んだことは無い。だから正直、この世界の人類はもう衰退していくしか選択肢がないのよ」


 「け、けどシェルターには食料が――」

 「あの場所で生きている全員を賄えるだけの食糧を常に供給できるとでも思ってるの?」

 「え」

 「加えて、今後生まれるであろう子供分は? 家畜を食べようにも育てるための餌は? そもそも、どうやってあの施設は維持されている? 疑問を列挙していけばわかるはずよ。そもそもシェルターは、成り立っていないということを」


 「とにかく、あらゆるシェルターは【中央セントラル】の管理下に置かれてる。そして、あらゆるシェルターの問題を【中央セントラル】が一手に引き受けてきた。つまり【中央ここ】という大黒柱を失えば、あらゆるシェルターは近い将来に破綻を向かえる。ま、顔も知らない奴らを気にしたところでしょうがないんだから、これ以上考えても無駄よ無駄」


 ぱん、手を打って小気味の良い音をだしたクレハは、これ以上はもう語ることはないとそこで話を切った。クロやリョーは大してそのことを気にはしていなかったが、柏はどこか煮え切らない様子を浮かべながらもそれ以上の追及をすることはやめた。


 「さて、この世界がもう終わっている話はこれでいいわ。というか、環境が死んでいるから、の一言で片ついたのに結構長くなっちゃたかしら」


 「それじゃ次は、もう一つに理由について、ね」



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