彼女は告げた
「さて、一つだけアナタたちに言わなきゃいけないことがあるわ」
「この物語は既に、終わっているってことを」
――――――
「ひま……」
部屋から出れない日々が数日過ぎた。
外に出ることも出来ない現状、話し相手になってくれるのはクレハぐらいだけど、そのクレハ自身は食事を持ってくればすぐに出て行ってしまうためにあまり話してはくれない。
となれば出来ることは部屋の中での簡単な運動ぐらいなもので。桐峰に教えてもらったことを消化するのにはそう時間を要さなかった。
やることも無くなれば、後はベッドで寝転がるか床に寝転がるかの差しかなく。
「こういうとき、本があればいいけど」
あの家を出てから本なんて読んでおらず、読んだものといえばよくわからない文献がほとんどだ。せっかく時間が有り余っているのだからこういうときにこそ本を読みたかったけれど、無いものねだりをしても意味は無く、こうして無為に時間が過ぎるのを待つだけだった。
数日、というのは食事をしている回数と私が眠っているのを数えているために正確な時刻がわからないからだ。クレハが持ってくる食事は基本的にスープがほとんどで、それが朝食なのか昼食なのか夕食なのかがわからないというのが時間の感覚を鈍らせる要因の一つでもあった。
「はい、食事よ」
そうしてどれほどの時間をぼーっとしていたのかわからないけれど、クレハが食事の入った容器を手に部屋へと入ってくる。起きてから二度目の食事だから、昼食ということでいいだろう。
「それと、あの二人、動けるようになったわよ」
「ほんと!?」
「そんなことに嘘を吐く理由は無いわよ。まぁ実際には少し前から起きてたんだけど、様子見をしててね。もう大丈夫よ。って、部屋から飛び出そうとしない!」
「で、でも――!」
「少しは落ち着きなさい。とりあえず、腹ごしらえだけはしてからね。急いで食べないでよ?」
「う、ぅん」
「はぁ……。心配なのはわかるけれど、正直アンタよりも遥かに健康体よ。どっちかっていうとアンタの方が……」
「はむ、ずず、はふ」
「聞いちゃいないわね」
「ごちそうさま! クレハッ」
「はいはい。急かさないで。それと、食器もちゃんと持ってきなさい」
出来る限り急いで食べ終えれば、呆れ顔で彼女は私を見ていたけれど、どうしてそんな顔をしているのかわからなかったけれど、部屋を出て行こうとする彼女に続いても何も言われなかったので食べ終わった食器を持って彼女の後を追うことにした。
「さー、かんどーのごたいめーん」
「クロ、リョー!!」
「「ハク」ちゃん!!」
クレハが扉を開いた先に、二人はいた。
私が駆け寄るのに二人も気づき、駆け寄ってきた。
「大丈夫、なんとも無かった!?」
「わ、私は大丈夫だから、うぷ、ちょ、ちょっと落ち着いてよリョー!?」
「はぁ~、ハクちゃんだ。久しぶりのハクちゃんだ~。あぁ~」
駆け寄りざまに抱きつかれた挙句、人の胸元に頭をこすり付けるのはいくらなんでもやりすぎなんだけど、心配してくれていたのは違いないし、拒否しづらい。
「おら、それ以上は離れろ」
「も、もうちょっとハクちゃん成分の補充をさせて~」
「なんだそりゃ……」
どうやってリョーを宥めるか考えていれば、それを察してくれたのかクロが彼女の首根っこを掴んで引き剥がしてくれた。
「三人とも落ち着いた?」
「え、ええ」
「ああ」
「ボクは……まぁ、はい満足しました~」
「そう、積もる話はこの後いくらでもする時間はあるんだから、今はあたしの話に耳を傾けなさい」
そういってクレハ言うと、私たちを適当な椅子に座らせた。
促した本人も椅子を自分の傍に引き寄せ、座った。
――――――
「さて、一つだけアナタたちに言わなきゃいけないことがあるわ」
「この物語は既に、終わっているってことを」