追いかけるもの
焼け焦げた家に踏み入れる一つの影があった。
そこは青年にとって我が家というべき場所だ。
しかし、今は跡形もなく全てが炭化し、唯一外観を残している家の姿だけがあった。この場所での思い出はおそらく全て燃えてしまったのだろう。
青年は一頻り家の中を散策した後、車庫へと向かった。そこにある避難経路を確かめるためだ。長い道を歩いて、彼は一つ大きな息を吐く。
「どうやら、無事に逃げられたみたいだ」
この家に住んでいたであろう一人の少女。一方的に別れを告げておいて、結局巻き込んでしまった。しかしこの避難経路を使用した形跡があることを確かめられただけでここに寄った甲斐はあった。
「出口はあの大岩……だとすれば、ここ通りながらこっちに向かうか……」
頭の中で地図を広げ、避難した場所の出口を思い浮かべる。そしてあの子ならばこうするだろうと筋道を立てていった。
向かうべき場所は北だ。間に合うかどうかはわからないが、急げばそれだけ会える可能性は残っている。
急いでバイクに跨る。多少の荒地でも走れるように改造は施されているが、基本的には道を使って走行するほうが速いのは確かだ。エンジンは唸りを上げる。
「無事でいてくれ、柏」
青年はそう呟いて走り出した。