龍を鎮めるために
服といっていいのかは難しいけれど、幸いにもすぐに着るものは見つかった。
「いや、服ではないでしょこれ……」
「白衣だけだもんね」
「しかも、どうしてこういう白衣は前を留めるものがないのよ」
着た白衣はあまり考えたくないけれど、男が着るために常備しているものなのだろう。大人のサイズであるそれは私の足元を隠すぐらいには大きく、全身を覆い隠すことは出来た。ただ、白衣には留め具が付いておらず手で前を閉じるようにしないといけないというのが問題だった。
「とりあえずはそっち見ても平気なんだよな?」
「え、えぇ。一応ね」
「はぁ、ったく。あっちのやべぇヤツらを見てたからいいけどよ、さっきハクはあの二人を止めるとか言ってたよな?」
「うん、そう」
「ずっと見てた限りはキリミネのヤツが押してる。それなのにか?」
「ええ。というかこの場合は、桐峰を止めないといけないのよ」
「あぁ? どういうことだ?」
「こういうのもアレなんだけど、そもそも白衣の男は戦うというつもりが皆無なの。一番の証拠は攻撃を仕掛けた様子が一度もないってことね」
「まぁ確かに、桐峰の拳を受け止めるために手なんかを出してるときはあるが、それで桐峰に向けて攻撃をしてるのは見てないな」
「だからこそ、こちらが攻撃しなければあの男は攻撃を仕掛けてくることはない……はずなのよ」
「オレらにゃアイツの内心なんてわかんねぇからそのリスクはわかる。それでも、どうしてキリミネの方を止める必要があるんだ?」
「私たちの目的は?」
「えぇっと……【中央】を壊滅させる、か?」
「そのはずなのよ。けど、桐峰は違うのよ。あの人は多分、私たちが生まれる原因や彼をあのようにした元凶であるだろう男を殺すためにここまできたんだと思う」
「……あー、目的というか、そもそもの前提がオレらと違ったのはまぁいい、わかった。というか【中央】の壊滅をするなら結局はここの責任者であるあの男を殺すのが手っ取り早いっていうのも、まぁわかった。だったら尚更、オレたちはキリミネに加勢をすればいいだろ?」
「はっきり言うなら、無理よ」
「あ?」
「殺せないわ、あの男は。どうして、って聞かれると難しいんだけど、あれを殺すのは無理」
「じゃあどうすんだ?」
「しょうがないことなんだけど、見逃すしかない」
「マジかよ……」
私の記憶の中では、あの男は今始めてみる。けれどどうしてか、あの男はマズイと感じるのだ。
あの不敵な笑みが気にかかるからなのかもしれない。そうじゃないかもしれない。
「問題は、どうやって桐峰を止めるか、なのよね……」
「正直に言って、オレもリョーもアソコにゃ混ざれねぇと察して先にハクをカプセルから出すって方針にしたんだよ。だから今も、あれに飛び込んで止めるっつぅのは命一個を無くしかねぇ程の危険性がある」
「リョーは?」
「うーん、一応ボクとしては少しだけでも介入はできるよ。けど、それもキリミネさんの攻撃を二~三回防げるってぐらいだから難しいと思うし、それができるのも全部の水を使い尽くしてってなるから」
「そうなると、勝負は一瞬か……」
この場合、肝心なのはあの二人の戦い……主に桐峰の方を止めるのが最善だ。
しかし仮にも【リュウ】なんて呼ばれている上に、私たちが三人がかりでも勝つのは難しいぐらいの接戦になるだろう。まぁはっきり言って無謀だ。
「わかった、それじゃ作戦は――」