ネイキッドガールは止めるために服を探す
「ん、んん……」
なんだか……身体が寒い。
「ハクちゃん!!」
私の名前を呼ぶ声がする。
そうだ、この声は――
「リョー?」
「良かった、目を覚ました! 大丈夫、どこか変なところはない?」
「寒ぃけど、ぇっと、私……あれ?」
眼前には、私のことを心配げに見つめるリョーの姿があって、どうして彼女はそんなに不安そうな顔をしているんだろうか。
頭のなかは霞がかかってるかのようで、よく思い出せない。
何か、とても忘れてはいけないような夢を視ていたような、絶対に思い出してはいけないような悪夢を視ていたような気がする。けれど、それを掴もうと手を伸ばすほどに離れてしまい、やがてどこかへ行ってしまう。
「は、はっくしゅん!!」
「だ、大丈夫!?」
「う、うん、なんか水をかけられたみたいに寒くて……」
「あ、あー、それはその……間違ってないというか、なんというか」
「? どういうこと――」
なの? とリョーに言おうとしたところで、視界に濡れた髪が一房垂れてきた。うっとおしいので手を動かして退けようとしたところで、手と一緒に腕にも目がいく。着ていたはずの服は捲くられたのか地肌が見えている。それと一緒に、背景になっていた私の身体もまた視界に映る。
服を纏ってなかった。
つまり全裸だった。
「ちょ、ちょっと待ってなんで私はだきゃなの!?」
「お、落ち着いてハクちゃん」
「落ち着けないわよ、というかどうして私の身体濡れてるの!?」
よくわからない状況で何故か全裸で何故か濡れている。これを落ち着いていられるのならそれはそもそも事に気づいていないか変態かまた別の何かだ。そして私は別に変態でもないし羞恥心は人並みにはあると思うのでいくら目の前にいるのがリョーといえど恥ずかしいということに変わりはない。
「おい、そっちはどうなん――」
「「こっちみない!!」」
「お、おう……いや、というか見る気はねぇよ、状況はわかってるしさっさとどうにかしてくれ」
クロの声が聞こえて咄嗟に叫んでしまったけれど、彼の言うとおりそっちへ視線を向けてみれば背を向けている。
そしてその奥では、二人の男が戦っている光景が広がっていた。
「え、と、これ、どういう状況なの?」
「ハクちゃん、こうなる直前のことって覚えてる?」
「いえ、どうにも朧気で、最後の記憶は……応接室のあたりかしら」
「じゃ、あの部屋を出たときにボクたちとはぐれた事は?」
「えぇっと、ん、駄目、なんだか霧がかってるみたいに思い出せない……」
「詳しくは省けどハクちゃんとボクたちは応接室を出る際に分断させられて、その後ボクたちはハクちゃんを探している途中に桐峰さんと合流したんだよ。それで、探しているうちに男のいるこの部屋にたどり着いたんだ。で、そこにあるカプセルの一つの中にハクちゃんはいたんだ」
「カプセル……」
リョーの指した先には、いくつものカプセルが並んでいた。中には全裸の男性や女性がおり、つまり私が裸になっていたというのはあのカプセルの中に入っていたからということなのだろう。
道理で濡れているわけだ。
「今は桐峰さんとあの男の人が戦ってる……っていう状況なのかはわからないけど、ともかくボクらはハクちゃんを救うために行動した結果、こうなったってところ」
なるほど。
とりあえず、最低限のことは把握できた、はず。
よく見てみれば、桐峰の怒りに染まった表情で男へと猛攻を仕掛けているのに対して、男は薄ら笑いを浮かべながら口を絶えず動かしながら全ての攻撃を避けるかいなしている。一度も攻撃を仕掛けようという態度は見受けられず、ひたすらに何かを喋ってはそれを間近で聞いている桐峰の形相はより怒りへと傾いているようにも感じた。
よくわからないけれど、あの二人を止めなければいけない。あのままあの争いを続けるというのは危険だと、私の何かが警告する。
ただ、
「とりあえず、着るものが欲しい」
さすがに全裸で行動はしたくなかった。