培養液の中の夢
それは夢だった。
――あぁ、素晴らしい……!
私の知らない、私の記憶。
漂白されたはずの私たちが、輪郭を帯びていく。
――体機能のほうは?
――××機能に関しても試しておいた方がいいだろう
――傷は付けるなよ、それは貴重な××なんだからな
――ちぃ、どうして暴走する!? なにが原因なんだ!?
――消しておけ、残すんじゃないぞ
ぼんやりと見えるその光景は、緑のフィルターが貼られていて、その奥にあるものは歪んで延びていた。
――データは捏造しておけよ、失敗記録はそのままでもいいが、統合性があるようにはしておけ
――愛しの娘よ、愛しの娘よ、必ずオマエはこの手で作り出す、だから……
その光景の中で一番目にしたのは、きっと私に向けてずっと声を変えている男。
顔はわからない。白衣を着ているのはわかる。
男だと判断しているのはその人物の輪郭が女性というには太かった。そして聞こえてくる声も太かったから。
そうか、これは私があのベッドから起きてから、また眠ったあとの記憶。
今まで一度として意識したことのなかった空白。
それは過ぎた場所で、それは意味の無いもので、それは思い出すことのなかった記憶。
――お前たちィ!! なにを、なにをなにをなに、を、ししししししたたたぁあああああああああ!?
――おぉ……おぉ……すまない、すまないぃ……オマエを穢すつもりは、あぁ、アァ……許してくれ、許して、クレェ!!
――そうだ、やり直そう、そうだ、穢れたを禊ぎ、真っ白に。そうすれば、やり直せる。全て、なかったことにすればいい。全て、すべて、スベテ
わからない。
けれど、きっと私に一番声を掛けていたであろうその男は、段々とおかしくなっていった。
言葉多く、言葉は大きく。
だけどその言葉は、段々と意味を失っていった。
――また穢れてしまっても、やりなおせる。そう、やり直すことは出来る。何度でも、何度でも、私の手で、私の手で、何度でも
――穢れたのなら、やりなおせば、はじめからダ
狂気の果てに辿りつき。
納まらない欲求は一人の手によって砕け散り。
私は真っ白なまま世界へと生れ落ちた。