カプセルの中の少女
「いやはや、素晴らしいよ。一応あれでも今まで作ってきた【因子保持者】の中ではトップクラスの能力を持っていたのだがね。全て倒されてしまうとは……。これはあれかな、人間を作るのは生まれではなく育ちということなのかな? まぁそう言われてしまうと今まで【中央】がやってきたことは無駄ともいえてしまうね。いやぁ、滑稽だ。何が滑稽って、周りの奴らが誰一人として人類の進化なんてことを考えていなかったということだね。…………はぁ、だから他人というのは嫌なんだ。美味しい部分を頂くためにすり寄って、出来てもいない笑顔に媚びを重ねていって、己の欲を満たすということだけにひたすら邁進する。反吐が出る。その典型があの地下だね。【龍】クンも、そう思うだろう?」
「………………」
「おやおや、答えてくれないか。まぁいい――」
「それよりも柏はどこにいる……」
「はくぅ? それはあれかい、【白虎】のことをいっているのか? はははあの【因子保持者】のことか。あれは中々面白い出来だったよ。ある意味では完成していないのが完成しているともいえるか。わざわざ自分の一部である因子を隠蔽するなんて、無駄なことをしていたが、それがある意味では自分を人間だと思い込ませるための仕掛けにもなっていたようだし、切り替えるさせるという発想は面白かったよ」
「彼女はどこにいる!?」
「人の話を聞かないなぁ、キミは。そんなに見たいならそこにいるだろう?」
そう言って、男は指を差し向けた。
彼が光を背にして立っており、その奇妙な雰囲気と影が注目を彼へと向けていたのだが、光の出所へと目を向けてみれば、そこには透明な液体が満たされたカプセルの中に漂う少女の姿があった。
衣服は何一つ身に着けておらず、腰にまで届きそうな髪は液体に浸されていることもあってか自由に散っている。
口と鼻にはマスクが取り付けられており、そこから伸びるチューブが空気を送り込んでいると考えることができる。
「貴重な被検体なのでね、少し協力してもらっている。あぁ、もちろん死んでいないよ。死んでしまってはせっかくの貴重な情報も死んでしまうからね。とはいえ途中で目を覚まされて混乱しても困るから空気と一緒に眠ってもらっている。それと、ところどころに傷が目立っていたからね、そちらも治療させてもらったよ【因子保持者】には必要ない処置ではあるけれど、万が一があったり負傷が影響でデータが変化しても困るからね」
「今すぐ、彼女を解放しろ」
「それは出来ない提案だ。彼女は現在進行形でデータを提出してくれている。そうだな、これはある意味では隠蔽に捏造を繰り返して研究情報を提出してこなかった西の研究所の成果を見せてもらっているようなものだ。つまりは彼女を調べるということはしなくてはならないことなんだ」
「お前の都合などどうでもいい」
「キミの都合もどうでもいいね」
「なら」
「なら?」
「力づくでも取り返す!!」
「やれやれ、今後の課題は【因子保持者】をもう少し理知的にするべきだナ……」