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Factor  作者: へるぷみ~
玄い少年は怠惰でありたい
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雨宿り、北を目指して



 最初は不安だったあてのない旅も、少しずつ慣れてきた。

 自分ではあまり意識はしないけれど、シェルターでよく出会う子供や、買い物先の大人の人たちに比べてどうやら私の身体能力というものは高いらしい。比較対象が少ないから実感はないけど。

 朱里は意外と体力があるようで、ほぼ一日歩き通しだというのに疲れたと泣き言を言うこともなければ、目に見えた疲労を表すということはほとんどなかった。

 問題があるとすれば夜営だ。火を焚いて眠っているが、あまり長く眠れることはできない。絶えないようにする必要があるというのもそうだが、私と朱里しかいない以上警戒するのは私の役目で細かく眠っては道中で拾った木や枯れ草を投げ入れていた。


 雨が降りそうな日はわかりやすく雲が翳ってくるので、多少不安はあっても廃墟となった場所で雨宿りをしてその日は動かないようにしている。その分体を十二分に休ませることができるためたまの雨はとても助かっていた。また、ろ過装置と雨水を保管する道具で飲み水を入手できるため自然のありがたみというものを寄り近くに感じることができた。


 「とはいえ、どこに向かえばいいものか」


 はっきりいって、家の近くにあったシェルター以外に他のシェルターの当てはなかった。また追われているのかどうかもはっきりしないためにできる限り舗装されている道を使うのは避けていたせいで一度もシェルターらしき影も見ていなかった。


 「柏、わたしここらへん知ってる」

 「朱里?」

 「えぇーっと、これ、キリミネに地図もらったの」

 「地図? そんなものが……」


 朱里が外套の中で何かを探す素振りをしてしばらく、小さな手が握っていたのは折りたたまれた一枚の紙。広げてみれば四方1.0の大きな地図だった。というよりもこれは、ここら一帯どころではない範囲の地図だ。現在位置がわからないままじゃ地図があってもわからないが、そこのあたりは彼女に心当たりがあるらしい。


 「柏の家は多分この山で、すぐ近くにシェルターがあった。そこからシェルターと山を背にして歩いてきたからここを辿って……それで、最近この場所を通ってきたから多分、今はここらへん」


 どうやら私と桐峰がいた場所は地図上では南西よりの場所で、そこから長い時間中央を避けて北上してきたようだった。朱里が指差した場所は大体北西から北北西に差し掛かった場所。近くは渓谷になっているようで、大小さまざまな山谷があった。北の奥のほうにはどうやら一箇所だけシェルターがあるようだ。山の奥というのもあるし、一度いってみるのもいいかもしれない。


 「それにしても朱里、地図が読めるのね」

 「わたしがいたところで覚えろって。いろんなこと教えてもらったの」

 「……そう」

 「柏は、教わっていないの?」

 「私は……どうなんだろう。教わってないけど知っていることはたくさんあるの。でも、知ってるだけ。私に世界を教えてくれたのは桐峰で、私が生きているのはあの人がいたから」

 「そっか。わたしたちは皆いっしょだったの。『おまえたちはこの先の人類として生まれた』んだって。だから一緒に勉強したりしたんだけど、『失敗作は処分だ』っていって時々一緒にいたこがいなくなっちゃった。みんなと別れたくなかったから頑張ってたけど、みんなどんどんいなくなっちゃった」

 「………………」

 「残ってたのはわたしと少しだけで、やっぱりその日にまたひとり連れて行かれちゃったんだけど、そのときに、キリミネがやってきて、『たすけにきたよ』って。わたしたち皆でにげたけど、途中で転んじゃってついてけなくなっちゃった子や少し遅れちゃって目の前で死んじゃって、残ってたのはわたしだけだった」


 人が死ぬ、という瞬間を間近で見たことはない。けれど、白い世界が赤く染まったあの瞬間の光景は今も鮮明に覚えている。人は傷つくと血がでて、一面を覆いつくすだけの赤はきっと全部血で、つまりアレは人の死が撒き散らされたものだったんだろう。朱里は、人が目の前で死ぬ瞬間を見たのだろう。自分とほとんど変わらないであろう子が死ぬ瞬間を。


 「外に出るときにね、これを貰ったの。『ここにあるものを使って、この場所にいきなさい。大丈夫、その外套を着ていれば防犯装置も反応しない。そして、たどり着いた場所には女の子がいるはずだから。助けてと、そういいなさい。少女の名前は龍堂柏。僕の自慢の娘さ』。だから、柏の名前を聞いたときにこの人なんだって」

 「そう」


 私の記憶はまだほとんどが白い世界のままだ。ここ2年ほどで色々なことを知って学んで生きてきたけれど、それでも思い出す。比較するものがそれしかないから。いつか消えるのかもしれない。けれど、まだ消える様子はない。


 「ちょっといやなお話になっちゃった」

 「そうね。ちょっと気分を変えようか。明日のことを話しましょう?」

 「うん!」

 「とりあえずは、この――」


 それでも昨日のことを思い出すよりは、明日のことを考えていたほうがいい。そのことを知ることができたのは多分、朱里と出会ったからだろうなと思った。



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