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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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殺すことが出来なくとも倒すことはできる


 厄介だな、と桐峰が思ったのは確かであるのだがこれに関して彼は攻略法を考えていた。

 無防備に蹴り飛ばされ、錐揉み回転をして床へと頭から落ちる。ごきり、と嫌な音が彼の耳に響いたが音源である【鳳凰】は何事もなかったかのようにすくりと起き上がる。やはり、傷を負ってもすぐに回復するというのは間違っていないらしい。


 やることは非常に簡単な事で、外傷となるような攻撃をするから【鳳凰】は回復する。であれば、回復しようがない攻撃を行うというのが一番だからだ。


 とはいえ、その方法もできて一度。加えて【鳳凰】のほぼ全身に行わなければならないというのは桐峰でも少々面倒なことだった。


 仕掛けたのは桐峰。都合三回目であるが、実際のところ【鳳凰】には先手を取ろうとする気がないというのを彼は感じていた。というのも、一度目の攻撃は素直に喰らったというのに、二度目の攻撃の際に彼は抵抗したというのがある。一度目に比べて二度目の方が致死性があるというのもあるのかもしれないが、それでも何の反応もしていなかった【鳳凰】は一度目よりも速い二度目の攻撃に対しては完全に対応してきた。偶然と呼ぶにはあまりにおかしなことだ。


 先は心臓を貫く動きをしたが、今度は彼の左肩を切り落とすために右手の手刀を振りぬく。


 「んあ」


 だが、【鳳凰】はその攻撃をわずかに一歩下がることで回避。

 振りぬく手刀が空ぶったのに桐峰はわずかに空目したが、反撃を喰らわないために上から下へ腕を振りぬいた際の勢いを利用して一歩詰める。同時に【鳳凰】の右のつま先を踏んで逃げられないようにし、右の側面全てを利用した体当たりをぶつけた。

 右のつま先を踏まれていた【鳳凰】は体当たりをされた際の勢いで後ろに吹っ飛ぶことは出来ず、体当たりの勢いをそのまま喰らってしまう。それでも喰らった勢いのほうが強かったのか、踏まれた靴を置き去りにして壁へと衝突した。


 【鳳凰】に外傷はない。だが、今の一撃によって内臓のいくつかは破裂しただろう。身体の内側は大分ボロボロのはずだが、やはり【鳳凰】という【因子保持者ファクター】としての能力によって青年は何事もなく立ち上がった。


 畳み掛けるように桐峰は近づく。


 腕使った攻撃と見せかけて、下段蹴り。

 小さく跳躍しそれは避けられた。


 浮いた体に向けて回転を殺すことなく中段回し蹴り。

 当たりこそしたが腕をクロスに構えて直撃を避け、加えて壁へと衝突するときには受身を取ることで衝撃のほとんどが殺された。


 壁にぶつかって床に足が着くよりも早く顔面へ向けて貫手を放つ。

 首を傾けて耳から頬にかけてぱっくりと裂けるが、その程度の傷は一瞬で回復した。


 壁に刺さった手をそのまま下へと振り下ろし、肩口を切り落とす。

 屈んだ後に横へと跳ぶことで壁へと追い詰められた状況から逃げ出す。


 転がり跳んで着地した際を狙い、踵落とし。

 背を向けたまま立ち上がり腕を交差させて踵の勢いが乗り切るよりも早く受け止めながら膝をバネにして勢いを和らげた。


 交差した腕を踏み台にして跳躍し、体を回転させて天井を足場に変えて再加速して拳を振り落とす。

 前へと転がり拳の着弾点から逸れることで拳は床を割った。


 「最初と比べて動きが変わっている?」

 「見た」


 短い単語しか呟かない【鳳凰】であるが、それさえわかれば桐峰もある程度いっている意味は理解する。

 つまるところ、桐峰の攻撃を何度か経験し、見ているからこそ次の一手に対処しているということだ。それならば最初の一撃を無防備に喰らい、二撃目は対象の抵抗をし、三撃目以降はほとんどの攻撃を避けたり捌くことができるのだろう。普通は出来ないことであるが、【鳳凰】という超常的な回復能力があるからこそ出来る芸当といえるだろう。


 となると、戦いを長引かせるのは厄介なことになる。

 体力的な問題はわからないが、今のところ【鳳凰】に回復する時のデメリットはないのだろう。加えて並外れた適応能力もまた厄介の一言に片付けられる。


 さてどうしたものか、と桐峰は僅かな思考を巡らせて――


 「これは、治せるのかい?」


 【鳳凰】は何の反応もできず、右足が斬り飛ばされた。

 自分の足が切り落とされたというのを気づいたのは体を支える足が無くなったことで重心が傾いたから。すぐに斬り飛ばされた足を治すべく、手を伸ばす。


 だがそれよりも速く、桐峰は切り落とされた足の膝関節を切り落とし、吹き飛ばす。

 【鳳凰】は残されて床に落ちようとした足を倒れながら掴むと、大きく口を開き食べていく。

 とはいえ足は指に比べれば遥かに太く大きいために一口でとはいかず、少しずつ齧り咀嚼されていく。恐らく太ももにあたる部分を全て食べるには時間がかかるだろう。


 そしてそれこそが、桐峰の生み出したかった状況。

 どうやらこの時ばかりは食べる方向へと注意が向くらしい。

 掴んだ手で足を口へと運んでおり、片方の腕はだらりとしたままだ。


 彼は肩を掴み、引っ張る。

 ごきり、と音がなった。

 肘を引っ張った。

 ごきり。

 手首を引っ張った。

 ごきり。

 指の関節一つ一つを引っ張った。

 ごきり、ぺき、ぱき、ごきり、ぺき、ぱき、ごきり、ぺき、ぱき、ごきり、ぺき、ぱき、ごきり、ごきり。


 【鳳凰】の腕は軟体生物のごとくぐにゃりと床に転がる。

 しかし、それを彼は気にした様子はない。


 そこからただの流れ作業。

 まだ動かしている片方の腕は放置し、切り落とされていない足の関節を一つ一つ外していく。

 その次は咀嚼していた顎と半ば無くなった足を掴んでいる手の肩関節を同時に外した。

 だらり、と口が開き、中に入っていた肉片と血液が床へとこぼれる。


 「あー」


 食べようにも上手く口と手が動かないという意志を挙げているのだろうか。それでも食べようとするのを止めようとはせず、舌がのたうち回っていた。

 肩が外れたことで全身を支える力はなくなり、べしゃりと音をたててわずかに起き上がっていた上半身が床へと伏せる。

 念のためにも、肘、手首、指、関節を外す。

 次に腰も。


 「とりあえず、これで最後だ」


 そういって桐峰手にかけたのは首。


 部屋に最後のごきり、という音が鳴り響いた。



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