荒ぶる刃の無い大剣
その一撃は豪快かつ、鮮烈だった。
距離は1.5は離れているというのに、その先端は届いた。
普段であればどんな攻撃さえも受け止めようとする彼が、その攻撃に関してだけは受け止めようとは思わなかった。本能的に、喰らっては不味いものであると確信したからだ。
一歩大きく退いて、自身の眼前を冷気が通過する。
その冷やりとした感触が氷で作られた大剣によるものなのか、自身の背から流れ落ちる冷や汗によるものなのかはわからないが、とにかくヤバイものであるというのだけは一瞬で理解した。
「そぉぉおおレッ!!」
横に振り回したというのにその大質量に体は振り回されず、上段に構えた氷の大剣を持ち手の彼女は振り下ろす。
迫る刃の無い大剣は、その刃のぶ厚さが人の頭と同等なほどだ。喰らえばその自重と振り下ろしたことで増した勢いによってなんの抵抗もできず押しつぶされるのは確定的だ。しかし、それだけ大きな得物というのもあってか細かい動きは出来ないようで、すぐに横へと跳べば回避することは容易でもあった。
どがっしゃぁぁぁあああん、と強烈な音を立てて草原を割る氷の大剣。彼らがいる場所は何でも戦闘用の部屋であるといい、周囲の草原や青空は映像だと言っていたが、確かに、飛び散る土のようなものが体を叩いて草原へと落ちると、そこにあったのは茶色な土ではなく銀色に光る金属片であった。
地面へと抉りこんだ大剣をそれこそ軽く引き抜いた本人は、自身の手で施設を壊しているということに特に感慨はないようだ。ちなみに、割れた場所はしっかりと土の色がある。
威力はとんでもないものであるが、それだけに速度は少し遅くなったし、双剣のときに比べて遥かに剣線は見やすくどのように切りかかってくるかは予想が簡単にはなった。
とはいえ、どっちもミスれば命はないという以上、状況は多少よくなったのかもしれないし、悪くなったのかもしれない。
「えい、やぁ、それ!」
軽々しい口調であるのに、振りかぶっては風を薙ぎ、地面を砕くそれは非常に重い。
とはいえ、先ほどに比べれば遥かに隙が増えたのは確かである。
「はぁあああああ!!」
「どらぁああああ!!」
薙ぎ払われた氷の大剣を、クロは屈み、リョーは跳躍して避ける。
同時に一気に駆け出し【霊亀】のもとへと駆け出した。
無論、近づかせたくない彼女は氷の大剣を振るう。
頭上目掛けて叩きつけようとしてくれば即座に横へと跳んでからすぐに前へとダッシュ。
袈裟切りをしてくれば上へ跳躍して地面へと叩きつけられた氷の大剣の剣の腹の部分を足場に駆ける。
「ちょこまか、しないでくださいぃ!」
そうやって近づいてくる二人に対しての最終手段が、氷の大剣の剣の腹の部分を地面と垂直になるよう構え、思いっきり振り回す。
しかも一回ではなく、斜めにしたりと繰り返し振り回す。
がむしゃら、というのが正しいのか、予想しにくいその振り回しはさすがに二人もリスクを犯すことは出来ず、一旦大剣の届く範囲から離れる。仕切りなおしとなった。
「さすがに厄介だね、あれ」
「まともに受け止めでもすれば確実にやばい事になるしなぁ」
「振り下ろして床に当たったときにクロ君が押さえてみるっていうのは?」
「あんな大質量を易々と振り回せるんだぜ、難しくないか? けどまぁ、現状を考えるとそれも手っちゃぁ手か……」
「まぁあの大剣の対処が出来ても彼女自身にまともダメージを与えられるかがわからないんだけどね」
「幸いなのは、あれを振ってる本人に技術がないってとこだな」
「まぁ、フェイントも仕掛けず振り回すだけだから、なんとかなってるって部分はあるかも」
「よし、一旦やってみるだけやってみるか」
「本気?」
「オマエが提案しといてそれかよ……。ともかく、取れそうな手段はどんどん試していくっきゃねぇだろ? だったら、力比べをしてやろうじゃねぇか」
「わかった。最悪2秒でも抑えておいてくれたら近づくことはできるはずだし、なんとかやってみるよ」
「おう、頼んだぜ」