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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
153/187

攻め手なく守り手のみ


 槍というには遥かに短く、ではナイフのようなものかといわれれば柄は長く。柄と穂先を合わせて【霊亀】の腕と同じぐらいの長さというべきか。

 彼女はそれを特に構えるという所作もなく、身を低くして草原を滑るように近づいてくる。

 振りかぶる、という準備動作もなく放たれた突きが意趣返しとでもいうようにリョーの胸へと迫り来る。


 「させっか!」


 そういったのは彼女のすぐ隣にいたクロ。

 氷槍からリョーを守るために二人の間へと割り込み、彼にとっては腹部へと突き入れられようとしている部位へ【甲鱗】を展開する。


 しかし、一瞬目を見開いた【霊亀】は持っている氷槍の持ち手をくるりと反転させると、槍なら石突ともいえる場所で彼の腹部を突いた。

 鈍い衝撃が彼の腹部を襲うが、【甲鱗】によってそのダメージはほとんどない。


 「はぁああああ!!」


 一瞬の停滞を狙い、クロの体を中心に回転して勢いをつけたリョーが【霊亀】の顔側面へ向けて肘の一撃を繰り出す。


 「っぅ」


 咄嗟に両の手を顔へと運び肘の一撃を防ごうとするが、それよりも早くリョーの肘は【霊亀】の頬へと潜り込む。

 重い音と共に【霊亀】の体が横へと跳び、肘の当たった方の頬を手で押さえながらも彼女は危なげなく着地する。


 「まぁ、乙女の顔をキズモノにしようだなんて、酷いです、お姉さま」

 「嘘いわないでよ、当たったかどうかも怪しいのに」


 頬を押さえさも手痛い一撃を喰らったように見えている【霊亀】だが、一撃をかました張本人であるリョーにとって今のは不発というのが感想だ。何せ、肘が当たった頬へと当たった感触はほとんどないのだから。

 防御をするために腕をあげたのはほとんどフェイクのようなもので、彼女の狙いは咄嗟に肘があたる方向にむけて跳躍すること。勢いに身を任せることで本来であれば喰らうはずの衝撃を殺していた。


 それでも、【霊亀】は自分が女性であるという思いがあるからなのか、顔への攻撃というのはあまりいい気分はしなかったようだ。

 顔を退けると痣にはなっていないが、少しだけ擦れたように頬が赤くなっている。


 「なんだかんだで、お兄さまの【甲鱗】は厄介ですね……。お姉さまの【水を操る】能力はわたくしとも相性が良いのですが、如何せん体術という部分に関しましては二対一という不利的状況を覆すことは出来ません。こういうときは、【黄龍】の能力を羨ましくも思いますが……無い物を願ってもしょうがないですね」


 「で、あれば。わたくしわたくしなりに、やるしかありません」


 そう呟いて、【霊亀】は持っていた氷槍をあろう事か粉々に砕く。

 なぜわざわざ手に入れた武器を放棄するような真似をするのか疑問を浮かべたクロとリョーだが、【霊亀】がどうしてそのようなことをしたのかはすぐに知ることとなる。


 砕け、小さな粒となった氷たちは、重力に引かれて草原の中へと落ちていくはずだった。だが、砕けて氷の粒はどれ一つとして落ちることはない。停滞した氷の粒は彼女の目の前で球体へと変貌すると、それが二つに分かたれ、やがて一対の短剣を形どる。まるで、リョーが水を操るときのように。


 「やはり、わざわざ氷を作る必要がない、というのがいいですね。あまり嵩張るのは好きではないのですが、やはりこういったアイスプロックは常に持ち歩く必要があるかもしれませんね」


 【霊亀】の手に握られた一対の氷剣は、一見すればひび割れており脆そうに感じるが、そこには明らかに彼女の能力である【氷造】が発動しているのは確かだろう。であれば、見た目とは違うと考えたほうがいい。

 リョーとクロは警戒を改めた。


 先に動いたのは【霊亀】。

 先ほど同様に地を滑るように近づくと、身を屈めた姿勢から抜き打ちの振り上げがクロの右わき腹目掛けて斬りつける。

 それをクロは膝を曲げて当たる場所をずらし、腕に【甲鱗】を展開させると真正面からそれを受け止める。

 がちん、と互いに硬質なものをぶつけ合う音が響く。


 「あら、首がお留守ですよお兄さま?」


 彼女の攻撃を防ぐために身を屈め、さらに右の手を塞がれたクロはもちろん、左ががら空きになっていた。加えて普通ならば身長の関係で【霊亀】は跳躍でもしない限りは彼の胸元を薙ぐのが精一杯であるのが今は丁度狙いやすい位置にある。それを狙わない道理は彼女にない。


 空いている右の氷剣を、【霊亀】はクロの首目掛けて振り下ろす。


 「せぁあああ!!」


 だがもちろん、それをさせないためにリョーはいる。

 振り下ろされようとした氷剣の横っ面を奇跡的ともいえる精度をもって蹴り砕かれる。

 粉砕された氷剣は散らばりかけた瞬間にはピタリと中空で停滞すると、ゆっくりと折れた氷剣に向けて近づいていく。


 二人に反撃されるよりも早く後ろへと後退した【霊亀】。右手に握られている氷剣はすでに修復が完了していた。


 「助かった、リョー」

 「それはお互い様だね」


 戦闘においては有利に見えるが、内心二人とも一杯一杯である。

 なにせどちらも得意分野ともいえる部分を封殺されており、一対一で戦おうものならすぐにでも負ける確信があった。今は互いを補完する形で連携をとりながら【霊亀】からの攻撃を防ぐことは出来ているが、一つでもミスを起こせばあっという間に各個撃破されてしまうだろう。


 「ここにきてボクは体術頼り、クロ君は能力が通じてるけどああいう双剣みたいに手数の多い攻撃とは相性が良くないきたもんだ」

 「けど、さっきはリョーの肘鉄は効きそうだったじゃねぇか」

 「あれは普通に油断してたんでしょ、実際アレもあったっていうのは怪しいし」


 実際のところ、まともなダメージと思われるものはまったく与えられていない。仮に最初のクロの攻撃を【霊亀】が我慢しているなんていう可能性があるならまた話しは変わってくるが、あんな身軽な動きが出来る以上はそれを考慮して動くのは得策ではないだろう。


 「攻めることができないっていうのは普通に辛いね」

 「つっても攻めなきゃ勝てねぇし」


 今のところは防げているわけだが、このままずるずると戦いが長引くというのもあまりに良くない。となれば現状を打破する方法は攻めるしかないわけなのだが、今の二人には攻め手といえるものがない。


 「っ、来るよクロ君!」

 「わかってる!」


 再度向かってくる【霊亀】。


 二人は、未だ攻略の糸口を見つけてはいない。



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