たった一人の襲撃者
「侵入者は!?」
「見つかりません、しかし現存する部隊は残り3です!」
「ちっ、恐らく侵入者は二年前に他の支部を壊滅させているヤツだろう……」
「といいますと、例の?」
「ああ、【最初の因子持ち】。二年前に支部の一つが壊滅してからナリを潜めていたようだが、どうやらまた動き始めたらしい」
そこにいたのは黒い迷彩服を着た二人だった。顔を完全に覆ったマスクによって素顔は確認できないが、どちらも身の丈は1.8を超え、がっしりとした体つきであることと、片方の男は明らかにもう一人の男に対して上の態度をとっているということである。
部隊長にその副隊長という組み合わせであり、その周り合わせて計12人の小隊編成であり身長に多少のばらつきはあるものの全員が全員兵隊としての訓練を受けていた。
加え、今彼が襲撃を受けている施設には同規模の小隊が各部署に1つ常駐している。無論、外にも3個小隊がローテーションを組んで外部の警備を行っていた。変化は無いがだからといって手を抜いたことはない。プロとしての意識がそうさせている以上、たった一人の襲撃者に侵入されてしまったことに旋律を禁じえない。
「残っている【対因子部隊】は?」
「因子研究所と調教部屋、そして我々の遊撃部隊のみです。被害状況はどの部隊も最後の連絡時に断末魔をあげたということと、壊滅した部隊に生存者はいないということです」
「くそったれが! 証拠目撃者何から何まで消すつもりってことか……。おい、監視カメラの映像を回せ」
「はっ!」
「どうやら研究所に向かっているようだな……ここから向かったところであっちの部隊の全滅は免れんか……よし、我々は調教部屋の部隊と合流し侵入者の鎮圧を行う!」
「「「はっ!!」」」
隊列を乱さず、駆け足で調教部屋へ行く途中でも、リアルタイムで流れてくる監視カメラの映像を隊長と副隊長それぞれマスクのモニタから見る。
複数のカメラでどうにか捉えられる侵入者は、迷うそぶりも無く道を疾走していた。やがて研究所の目の前にたどり着くと、研究所を警護していた部隊が一斉に侵入者へ向け構えた小銃を発砲。秒速数十発が銃口から放たれ、鉛玉の嵐が壁となって侵入者へと襲い掛かる。
しかし、怯む様子も逃げる様子も見せることなく侵入者は足を止めることなく嵐の中へと突入した。本来であれば防弾チョッキを身に着けていようと守れるのは上半身の中心部だけ。下半身、腕、頭は蜂の巣になり血の花を咲かせて地に伏せるのだ。だが、そうはならなかった。奇跡的に銃弾が侵入者をすり抜けたわけではない。カメラに映された光景が確かなら、侵入者に着弾するはずの銃弾は全てがあたる直前に弾かれた。腕を振るったようすも、何かを使った様子も映像には映っていなかった。侵入者は五体満足のまま銃を放っていた部隊員たちの中心へと飛び込む。次の瞬間にカメラが映したのは虐殺だ。近距離において銃は|FF(味方撃ち)の危険性がある以上使用は控えなくてはならない。兵隊が銃を手放し近接戦闘用のタクティカルバトンやナイフに持ち替えようとした瞬間、得物を掴んでいた者たちの腕はコンマの差でひしゃげさせられていき、武器を持ち変えるのではなく銃床で殴りつけようとしたものは振りかぶった瞬間には首が変な方向へと曲がり、振り上げられた腕は下がることなく後ろへと倒れた。ひしゃげた腕の痛みに叫び膝を着いた者は前かがみになって頭が床に着いたかと思えばザクロとなって中身を撒き散らした。痛みを我慢してでも腰に備え付けられていた拳銃を引き抜き銃口を向けたものは銃口からスライドにかけて横にスライスされ、一緒に首から上もスライスされた。
全滅である。
わずか数分で行われた暴力の嵐に嫌悪を覚えながらも、しかしこの隊長は結果に対して納得せざる終えなかった。
「さすがは【0000:リュウ】か。いや、一息でこの支部が壊滅してないぶんまだ有情なのか? それとも、そうするわけにはいかないからこうしているのか?」
「隊長?」
「……いや、何でもない。それよりも行動を変更する。これより合流する部隊と我々の部隊は合流の後にこの施設から撤退を行う。それに加え【因子持ち】の搬送または処理、及び研究データの破棄を行った後に施設を爆破する」
「……了解しました」
先ほどまで繋いでいた通信を一旦切る。施設を守ることも重要だが、自らの命を守るのも大事だ。なにせ死ねばそこまでなのだから。どこかの死んだのに生きているような化け物とは違うのだ。
だから覆われたマスクの中でしか聞こえない声で男は呟く。
「キリミネ・リュードウ。正真正銘のバケモンがッ」
その日、一つの施設が壊滅した。
記録において生存者は0。
それがたった一人の男によって成し遂げられたことを直接伝えられた生存者はいなかった。