人を出迎えるための部屋
「つぅっ……」
扉に呑み込まれた瞬間、視界は真っ白、僅かに浮遊感、握っていた手だけが自意識を確固たるものにしてくれたからこそ、意識を失わずに済んだのかもしれない。
それでも、浮遊感を感じていたところにいきなり引っ張り込まれる感覚が襲ってくれば体勢を崩されるのは必至なわけで、真っ白だった視界が一転して色を持って迫ってくれば必然ともなるだろう。
そんなわけで、私もリョーも迫り来る床に対応できず転ぶ羽目になった。
敵地で転ぶという危機的状況に慌てて周囲を見回すけれど、どうやら先ほどのは罠とかそういう類のものではないらしい。現に周囲を囲まれているわけでもなく、すぐそこにはこっちを見下ろしているクロがいたからだ。
「おぉ、大丈夫か?」
「まぁ特に問題はないけど、クロは?」
「オレも今の二人と似たような感じだったな。一応周囲を確認してみたが特に危急ってわけでもないみたいだ」
「正直、さっきので完全に分断されたと思ったけど。運よく皆いるみたいね」
手を握っている先にはもちろんリョーがおり、クロも目の前にいる。当然私がいることは私自身が知っている。
リョーの手を放して立ち上がり、改めて周囲を見回してみる。
そこは部屋だ。大きいというわけでも、小さいというわけでもない。部屋の中央には二つの長椅子が向き合っており、その間には座った人の膝丈のぐらいの高さが置き場になっているテーブルがあった。
応接室。
頭の中に過ぎった私の知らない知っていることが、この部屋の意味を教えてくれる。
つまり、客人を迎えるための部屋ということ。
荒廃した世界ではシェルター間での移動も命がけであり、さらに今の人類の眼は外ではなく内に向けられている。シェルター間での交流なんてまずほとんどないというのに、【中央】という特異な場所にとっては外からの客人が頻繁とはいわずとも来るということらしい。
「それにしたって、どうしてあの扉からこんなところに繋がったのかしら?」
「さぁ? 何かあるとしたらさっきの扉ってことになるけどよ……」
「確信しようにもその扉がないんだよね~」
振り向けば、そこはただの壁。
私たちが通ってきたはずの扉はそこになく、あるのは正面の木製大扉と右の壁面にある木製扉だけだ。
はっきりいって私たちがこの部屋に入ってきたのが異例であると、部屋に問われている気分になりそうだった。
「無いものを気にしててもしょうがないか……とりあえず、どっちの扉に行く?」
「「大きいほう」」
「揃って言うか……。うん、それじゃ、とりあえずそっちに行ってみましょうか」
特に部屋の中で気になるようなものはなく、一刻も先に進むため、扉を開けた。