入室するならノックを三回
走り続けているうち、視界に壁があることに気づいた。
行き止まりかと一瞬だけ思ったけれど、よく見てみれば壁に擬装するように扉が存在している。
現在進行形で壁との距離は縮まっており、このまま行けば少しもしないうちに扉の前までたどり着くことができるだろう。
走り始めてから今まで、妨害の類はなかった。油断はするに越したことはないけれど、ここでいきなり罠が仕掛けられているという可能性も低い。
ようやく終着点を見つけたおかげか、気分は大分軽やかになっていて。自然と速度は増していく。
「はぅ……はぁ……ふぅ」
結局扉の前にたどり着くまで何も起こらなかった。
高鳴る胸と少し荒くなった呼吸を落ち着かせるべく、深く息を吸っては吐いてを繰り返しもう姿の見えている二人を待つ。
ちなみにリョーが私の少し後ろを走っており、それより離れた場所にクロはいた。
「よっと~。ハクちゃん速かったね!」
「結構な距離を走ってて息を切らせてない人に言われてもね」
「ボクとしては全力で走ってたよ~」
「いや、それでも、速すぎだろ、二人とも……」
「ちょっと、大丈夫なの?」
「クロ君、走ってるっていうよりは大きく跳躍しながらだから疲れるよね~」
「あんま細かく足を動かすのは得意じゃねぇんだよ……! はぁ……それで、ここがこの廊下の終着点なのか?」
「一応、そうみたい」
「開くのか?」
「それはわからないわ。というより開けるための取っ手とかないし、認証式の扉って感じもしないんだけど……」
扉は目の前にあるというのに、開けられない。
どうしようかと悩みはするけれど、考え付くのは最終手段としての物理的な開錠ぐらいなものだ。まぁこの場合は破錠の方が正しいかもしれないけど。
そうして悩みながら、どこかに開けるための何かが在るのではないかと観察していた状態から実際に触れてみるということにした。
押してみる。開かない。
横に滑らせようとする。開かない。
取っ手はないから引けない。開けられない。
そこからはもうとりあえず触ってみるようなものだ。
殴ってみる。硬い衝撃を返してきたことから用意に破壊は出来なさそうだ。
実は扉のどこかに別の扉があるかさがす。あるわけもない。
これにて手詰まりになった。
「う~ん」
「もう、一回思いきってぶっ壊してみるか?」
「それはちょっと厳しいんじゃない? 軽く叩いた感じ、相当ぶ厚そうだし頑丈そうよ?」
「この扉、隙間があるようにも見えないね~。切れ目は在る感じなんだけど、下からは無理だったよ」
「水が入り込む隙間がない……」
「あー、もうなんなんだよ、こいつはよ――ぉおおおおお!?」
ごんごんごん、とクロが扉に寄りかかりながら殴りつけた。その瞬間のことだった。
「クロ!?」
「うひゃ~、消えちゃった!!?」
四度目の殴りつける音は場に響かず、クロの驚きの声と共に彼の姿は扉の奥へと呑み込まれてしまった。
もちろんその光景を見ていた私もリョーも、彼が消えてしまった扉に向けて駆け出す。
「そんな、通れない!?」
物言わぬ壁となった扉が、そこにある。そして私もリョーも、扉にぶつかってしまった。
「どういうことなの?」
「う~ん」
クロが扉に呑み込まれて、どうなったのか。それがわからない。安否は気になるけれどもし続くように扉に呑み込まれてしまった場合は無事であるという保証はない。
「さっきクロ君、扉を三回ごんごんごんって叩いてたよね~」
「ええ。それで四回目を叩こうとしたところで扉に呑み込まれた……」
「多分同じことをすればいいと思うんだけど~、どうしよっか?」
「試してみるしかないでしょう」
結局、扉の奥へと行くにはクロの行った偶然の出来事を再現してみるしかなく、不安はあるが行くしか道はなかった。
扉へと寄りかかる。今回はリョーと手を繋ぎ、扉に呑み込まれた後にはぐれないようにする。
二人同時でやる必要があるかはわからないから、私が扉を三回叩くことにする。
「……行くわよ」
「いいよ~」
ごん、ごん、ごん。
扉を三回叩く。
「――? きゃ!?」
「うわぁああ!?」
叩いた瞬間に起こるかと思いきや、一拍置いて私たちが寄りかかっていた場所は突如として何もなかったかのように姿を消し。行き場のなくなった力はそのままつんのめるようにして扉の奥へと私たちは呑み込まれた。