肉体的限界がもたらすもの
攻撃手段の限られている私たちに出来ることは、相手の体力を削り隙を作るということ。
そのために必要なのは絶え間なく動き続けるということだけ。
しかし、体力の差というのは時間の経過と共に顕著になっていき、意識的にも無意識的にもその思考と動きに鈍りが生じ始める。
そして、私、クロ、そして目の前の男の中でついに最初の体力の限界が訪れた者がいた。
「っ、はぁ、はぁ、ぐぅ……!」
私だ。
どうしたって女性の体というのが影響しているのか、【因子保持者】としての性能として体力の方面は人より少し優れている程度というのがあるからなのか、暴れまわる心臓の音を耳の奥で聞きながら血の味のする空気を必死で取り込みすぐに吐く。ゆっくりのはずだった視界はいつの間にかぼんやりとしており、伝う汗が視界を遮りそうになる度に相手からの刺突斬撃が放たれ、それをどうにかこうにか致命傷になら内ように凌ぎきる。しかし顕著に現れた疲労によって完全には至らず腕を、わき腹を、頬を、太ももをと傷が増えていった。
クロとは違い戦闘中に傷が塞がることなんてない。傷口からは血が流れ服に吸い込まれて肌へと貼りつく。さらには失血による体温の低下と血の不足が起こす動きの鈍りはさらに私の肉体を追い詰めていた。
「ふぅむどうやらこちらとそちらでの能力の差がはっきりと現れてきましたか。あっちの力馬鹿はまだまだ元気だがこちらのほうは大分失血と体力的な意味合いで限界が近そうだ。となれば一気に攻め立てるのも手段だが……いや、そうもいかないか。今仕掛ければ危なかった。あぁくそ、厄介だな後ろ」
近距離にいるからこそ、少しだけ彼の呟きが耳へとはいってきた。
どうやら、愚痴のようなものらしい。それに、さすがに私の姿を見ていればこちらを先に潰して戦う人数を減らすというのは間違っていない。それだけに、一瞬だけ彼の視線は私やクロではなく、どこかへと向いていたのがわかった。何を見たのかわからないけれど、それを視た結果彼にとっては悪態を吐くような何かであったのは間違いないらしい。
とはいえ、確かにこちらが追いつめられていることにかわりはない。
ここで私がだつ落すればクロがしばらくひとりであいてどらなければらないわけで、リョーがごうりゅできてもそれは、えぇと、それは……。
だめだ、どうにもうまくしこうがまとまらない。
ゆっくりなしかいのなかでぼやけたせかい。
おそいせかいでなおもゆっくりなわたしのてあし。
みえている。
いま、わたしのしんぞうへとのびているあかいはが。
てをうごかそうにもまにあわない。
そしてわたしのからだにつよくなにかがつきたてられた。