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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
138/187

最適な対処をする


 殴る。

 無論単調な攻撃を易々とあたってくれるわけは無く、相手は下がって避ける。


 だが、殴るという行動はただの囮。

 手の内側に握りこんでいた小さな粒を、飛びずさった方向に向かって指で弾く。

 床へと着弾した粒は弾け、粉のようなものが狭い範囲に舞う。

 正確には揮発性の高い液体で、空気触れれば気化し、それを吸ったものの平衡感覚を一時的に奪う毒。量が少ないのと気化してからすぐに体内に取り込むことが無ければすぐに毒性を失うという部類なためにこちらへの被害はほとんどない。


 しかし、着地したのと同時に弾けたそれを一瞥することなくさらに一歩引き下がって毒の影響範囲より外に相手は出ていた。しかも口元や鼻を抑えて退いたということは今のを一瞬で毒性の何かがあると判断したということ。


 あの毒を使用したのは【中央セントラル】内では初めてだ。そもそも初見で今のが毒だというのがわかるわけはない。確かに、いきなり今までとは違うアプローチをしてくれば警戒をするのは当然であるが、あそこまで的確な対処をされてしまっているというのに驚いた。


 下がって少しして、こちらへと飛び込んでくる。気化した毒が無毒化したのを知っていたかのようにこちらへと突っ込んでくるのに合わせて対処。

 彼が懐から取り出したのは薄刃のナイフ。厚みはほとんどなく平行にしてしまえば刃を視認することすら難しく、加えて握っている柄を除いてそのナイフは白塗りされているために廊下の背景に紛れてより見にくい。


 ふ、と鋭い突き。ナイフが見づらくても振るための腕が軌道を知らせてくれる。ゆっくりとした視界の中で胸へと突き込まれた腕を弾くために手首目掛けて左の裏拳を繰り出す。


 だからこそ、ゆっくりとした世界で感じ取れたこと。

 ほぼぴったしに合わせたはずの裏拳を僅かに肘を曲げて腕を引っ込ませることでその軌道から退避。加えて私は振りぬいた腕の影響で胴はがら空き。遠慮無しに再度突き込まれるナイフを咄嗟に右足を肘から先目掛けて思いっきり蹴り上げる。

 反射的な迎撃。だというのに、読んでいましたといわんばかりに先ほどまで突き出そうとしていた手を返し、ナイフを逆手に持って私の蹴りの軌道上に沿わせるようにナイフの刃が置かれた。

 鋭い痛みが走る。

 置かれた刃物に対して手加減無く振りぬかれた蹴り。ナイフは何の抵抗も見せないように私のふくらはぎを切り裂いて、血が舞った。白色のナイフに赤が染まる。


 私が思わぬ形で傷ついたのを見ていたリョーはその手に握っていた水の槍を伸ばして突く。ゆっくりな世界であっても尚速いと思わせる速度で放たれたそれはしかし、突きという特性を理解してわずかに身体の位置をずらしただけで回避した。

 リョーにとって槍による突きは相手の動きを牽制するための攻撃であるが、未熟なものであれば容易に貫く。加えて返しの太刀ともいえる薙ぎ払いは一旦避けたと油断した相手への不意打ちとしては非常に有効な技だ。当然、避けた方向に向けて伸びた水の槍は振り抜かれる。


 此処まで来れば最早何か仕掛けがあるという疑いを持つのには十分すぎた。


 薙ぎ払われた水の槍を軽く跳躍して回避。そこへクロが――恐らくはさっき階段にあった瓦礫を持っていたのだろう――手の中で砕けた石礫を投げつけた。

 散弾の如く放たれた小石たちはクロのとんでも膂力によって生身の人間をぐちゃぐちゃにするには十分な勢いで襲い掛かった。


 さすがにこれを避けることは出来ないのか、だが一瞬の判断が命取りになる場面で相手は地震の斜線上にある小石の、しかも顔面や胴体の急所に当たるであろうものを全て砕き、特に当たっても問題の無いものだけを喰らった。

 初めてまともなダメージを与えたというのに、その成果は微々たるものだった。


 ここまでの彼の動きを観察して、考える。

 相手は人間ではない。【因子保持者ファクター】だ。

 つまり、何かがある。

 頭の隅にちらつく何か。

 それを見つけなければ、私たちはここで倒れることになるだろう。



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